不登校を克服できないままで良かったのか

もし、コロナでなかったら、ユメさんの場合は高2から高3に進級できていなかったでしょう。今まで休みが多く、五月雨登校(行ったり行かなかったりを繰り返す)が続いていたのに、急に3月だけ全て出席というのは現実には難しいからです。仮に、高3に進級できたとしても、やはり、高3の4月から急に出席ができるようになるのは難しいでしょう。どちらにしても、退学となったと考えられます。

それが一転、コロナによって、進級もできて、卒業もできてしまった。一見、それは喜ばしいことに思えます。しかし、学校に行けない状態のまま卒業してしまったら、その後はどうなるのでしょうか。ユメさんは大学受験を目指して浪人しているといいますが、塾にも行ったり行かなかったりを繰り返しています。

このままで大学に合格できるのかも心配ですし、大学に合格したとしても、その後、毎日通えるのでしょうか。社会人になったとしても、毎日出社して仕事をすることができるのでしょうか。

もしコロナでなければ、進級や卒業ができなかったことをきっかけに、高卒支援会などの相談機関に相談すれば、通信制サポート校やフリースクールなどに毎日登校できるように訓練できたかもしれません。しかし、結局ユメさん本人は、そういった相談機関に行かないままになっています。立ち直る機会が奪われてしまったともいえます。

「コロナだから…」が便利な言い訳に

ショウスケくんやユメさんのように、不登校状態になっているのにもかかわらず、学校で出席停止扱いになっているので進級できたり卒業できたりするため、当事者の生徒も保護者も危機感が薄くなっています。家にずっといても、周囲からの視線も「コロナだから」という言い訳があるので、それほど気にならなくなっているのです。

杉浦孝宣×NPO法人高卒支援会『不登校・ひきこもり急増 コロナショックの支援の現場から』(光文社新書)
杉浦孝宣×NPO法人高卒支援会『不登校・ひきこもり急増 コロナショックの支援の現場から』(光文社新書)

そのため、高卒支援会での相談件数もコロナ以降は減っています。2017年度には447件の不登校・ひきこもりの相談件数がありましたが、コロナ禍になった2020年度には293件になりました。

不登校やひきこもりになっても、相談機関などに相談して、きちんと立ち直って毎日登校したり通学したりできるようになれば、その後の人生はいくらでもやり直せます。しかし、ひきこもった状態で、立ち直るきっかけがないまま毎日が過ぎていくと、これは大変な問題になります。中高年の引きこもりを高齢の親が支える8050問題につながっていくのです。

私の指導経験上、不登校やひきこもりになったら、その相談や指導を開始するのが、早ければ早いほど、立ち直りやすいですし、立ち直るのにかかる時間も短くなります。

しかし、コロナのために、立ち直るきっかけを失っている子どもが多くいるのです。

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