国内需要を優先した共産党政権は輸出を制限

それに加えて、新型コロナウイルスの発生源をめぐって中国はオーストラリアと対立し、豪州産石炭の輸入が一時止められた。中国の主要な石炭産出地である山西省で、洪水が発生して炭鉱が閉鎖された。感染再拡大による国境封鎖によって、モンゴルなどからの石炭輸入も一時停滞した。短期間で中国国内における石炭生産を増やすことはできず、石炭不足に拍車がかかった。

その結果、中国では石炭火力発電が減少し、産業向けの電力供給が不安定化している。アンモニアの生産は減少し、中国国内でも、肥料やディーゼル車の排ガス浄化などに使われる尿素および尿素水の需給が逼迫している。共産党政権は国内需要を優先し、尿素水の輸出を制限し始めた。こうして中国からの輸入に依存してきた韓国は尿素水不足に陥っている。

確保している在庫はもう1カ月分しかない

尿素水不足によって韓国経済はかなり混乱している。影響が深刻なのが自動車だ。韓国ではディーゼル車の割合が高い。韓国メディアの報道によると、韓国国内には2600万台の自動車のうち1000万台がディーゼル車とみられる。ディーゼル車が走行時に排出する有害物質の窒素酸化物(NOX)を分解する触媒として尿素水は欠かせない。

特に、尿素水の不足によって、貨物トラックが走行できなくなり物流が混乱している。公共交通や観光のためのバスが走行できなくなるとの懸念もある。ごみ収集車の運行への不安も出ている。建設機械や物流施設で使われるフォークリフトの稼働、さらにはセメントなどの生産活動への悪影響も懸念され始めた。

それに対して文政権は、オーストラリアやベトナム、メキシコからの尿素水の緊急輸入や、安全保障体制維持のために軍が備蓄している尿素水の放出を検討し、急場をしのごうとしている。韓国では、バス会社が確保している尿素水は1カ月分程度と報じられている。また、韓国の野党である“国民の力”は、発電会社5社のうち3社で尿素水の在庫が1カ月分しか残っていないとみている。