だから、アメリカはメルケル首相を警戒してきた。しかし2人の仲がいいことで、結果的にヨーロッパと旧ソ連邦の国々は関係が悪化していない。メルケル首相にとっては、アメリカに嫌われても、ロシアとの関係が良好なほうがメリットは大きいのだ。

EU至上主義と東寄りの発想

彼女にはロシアも仲間に入れた「ヨーロッパの家」というコンセプトがあった。トランプ前大統領は「NATO加盟国は国防費を増やせ」と言っていたが、メルケルからすれば、「馬鹿言うな。アメリカがいなければ、ロシアと対立しないで仲よくできる」というのが本音。ロシアとの関係が良好であるほうがメリットは大きいから、旧ソ連と戦うためにできたNATOは基本的に不要なのだ。ロシアとの関係がよければ、ヨーロッパは軍事予算を使わないから、より繁栄できるという東寄りの発想が色濃くある。

日本の首相たちが、中国ほど彼女と仲よくなれなかった理由も、彼女のルーツにある。この16年間に、中国を12回訪問したのに対して日本はたったの5回。日本とドイツはもっと仲よくすべきだが、メルケル首相の世界地図では、日本は小さな存在なのだろう。大きいのはロシアと中国で、中国の自動車市場でフォルクスワーゲンが長年シェアのトップを占め、中国の要人がヨーロッパを訪問すればメルケル首相に挨拶する。日米よりロシア、中国と仲よくしたがるのは、メルケル首相がヨーロッパでいまだに若干浮き上がっている最大の理由だ。しかし東ドイツ出身という彼女の出自を考えれば、ロシアや中国のほうに土地勘があることもわかる。

メルケル首相のEU至上主義と東寄りの発想は首尾一貫していた。それに引き換え、他のヨーロッパ諸国はブレまくっている。フランスのマクロン大統領は、若くて国際感覚は優れているが安定感はない。ブレまくるから支持率が下がる。イタリア、ギリシャなども同じだ。ドイツに反旗を翻したポーランドのモラウィエツキ首相とハンガリーのビクトル首相も、反EUを政治スローガンに掲げているように見えて「じゃあ、出ていけ」と言われたらすぐに態度を変えるはずだ。

EUは、メルケル首相のようなブレないリーダーがいないと安定しない。日本のリーダーも、メルケル首相のブレない姿勢を見習ってほしいものだ。

(構成=伊田欣司 写真=EPA=時事)
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