2回目、3回目の再発も。防止の鍵は「社会的機能」の回復
精神疾患を抱える患者の家族向けの無料コミュニティサイト「encourage(エンカレッジ)」を運営するベータトリップ代表の林 晋吾さんは、会社員時代にうつ病の再発を繰り返した経験を持つひとりだ。
「最初に不調を自覚したのは2010年4月でした。新設された部署の慣れない業務や人間関係に悩み、眠れない、食事が喉を通らない、新聞の内容が頭に入らないという症状が続きました。ある日電車内で過呼吸になり、パニック障害と診断されました」
林さんは会社を休職。3カ月後に復職したときには人間関係も改善し、仕事量もうまくコントロールするなどして1年以上は体調が安定していたという。しかし、仕事のミスをきっかけに2011年11月に再発。今度はうつ病の診断を受ける。再び休職するも体調がなかなか戻らず「これ以上会社に迷惑をかけられない」と、7年間勤務した会社を退職した。
退職後、林さんは実家に戻って療養。家族からは「ツラそう」「焦りすぎているように見える」と指摘されたが耳を貸さず、自分では大丈夫だと判断して就職活動を開始。2012年9月に別の会社に就職した。ところが、1年半後に再発。出社することができなくなり、そのまま離職を決めた。
その後も小さな再発を繰り返したが、自分なりの対処で乗り越えながら起業も果たした。ここ5年は再発もなく安定した状態をキープしているという。
林さんのように「再発を繰り返すケースは少なくない」と、精神科の医師・石郷岡純さんは指摘する。
「うつ病の症状が改善したあとでも、社会機能(※5)の障害は継続することが多い。社会機能が回復しないまま焦って復職すれば、その人本来のパフォーマンスが発揮できずに苦しむばかりか、再発のリスクにもつながりかねない」
※5 仕事を順調に遂行したり、余暇を楽しんだり、家族や同僚との関係を保ったりといった機能のこと。
「うつ病症状の回復」と「社会機能の回復」にはタイムラグがある
うつ病は1段ずつ階段を昇るように治癒していくのが特徴だ。「イライラ」「不安感」「憂うつ感」といった症状が初期に改善され、その時点でも患者本人はかなりラクになったと感じるという。「喜びがない」「生きがいがない」といった症状が改善されるのは、比較的あとのほうだとされる。
こうしたうつ病の症状が寛解しても、「社会機能障害」の回復までにはさらに時間がかかるのが一般的だ。
「うつ症状の回復と社会機能の回復にはタイムラグがあるのです。症状が軽くなったからと焦って復職すれば、再発を繰り返してしまう」(石郷岡医師)
企業でメンタルサポートにあたっている産業医の野﨑卓朗さんも「うつ病患者は復帰を焦る傾向がある」と指摘する。
「多くの人は長期で休むことに慣れていないため、“休むと居場所がなくなるのでは”という不安から復帰を焦る傾向がある。“もっとも悪いときよりは改善したので大丈夫だと思う”と、自分の状態を楽観視する傾向が再発する人に多く見られる」(野﨑医師)
以下の調査結果からも、患者と医師の「社会機能に関する認識の違い」が浮き彫りになっている(図表1)。
重症期、軽症期、軽快期のすべての病期において、医師は患者本人よりも、患者の社会機能を低く評価する傾向が見られた。つまり「患者本人は社会機能が良好だと楽観的にとらえているが、医師は常にそのように判断していない」と捉えられるということだ。