高2の時に“東大建築”へのあこがれが強くなった

自分の生活とつながったところに疑問があり、それを学ぶことで新たな課題も生まれる。

「大学で勉強してみたい」。

Aさんの心のなかに、大学進学を目指す気持ちが芽生えた。高校2年生のときである。当時の志望校は理系や文系の垣根がない国立大学の文理融合学部だ。得意な理系分野をまちづくりや地域コミュニティにつなげたいと考えていた。その一方で、建築にも興味が湧き、関連する本を読み漁った。

単に、竹や木材、石などさまざまな素材でできたかっこいいデザインの建築物が載っている本を見るのも好きだったし、建築がその町に住む人々に影響を与えることも面白かった。そんななか、気が付いたことがある。

「著書のプロフィールを見ると、多くを東大出身の先生が書いているということに気が付きました。歴史を調べても東大が日本の建築界を背負ってきたことがわかったんです。日増しに、“東大建築”へのあこがれが強くなり、東大で学べたらいいなと思うようになりました」

東京大学・本郷キャンパス内の通路
写真=iStock.com/Cedar_Liu
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僕も東大を受けてもいいんだと思えた

とはいえ、Aさんには心配事があった。学校外の活動や建築の勉強に力を入れていたため、各教科の得点が求められる東大の一般入試を目指す自信がなかったのだ。そこで浮上したのが東大の推薦入試。グローカル・ラボでの経験を活かすこともできるし、何より大学で学びたい意思を伝えることができる。

チャレンジしたいと思いながらも心は揺れていた。何しろ学力が、東大を目指すと口にするのもはばかられる状況だったからだ。

気持ちが固まったのはそれから約半年後。思い切って東大のオープンキャンパスに行ってみることにした。東大の本郷キャンパスを訪れたとき、人の多さに驚きながらもこう思った。

「たくさんの人が歩いているのを見てたら、多くの人はこんなにライバルがいるなら止めておこうと思うかもしれません。だけど僕は『こんなにたくさんの学生がいて、こんなにたくさんの受験生が東大を目指しているなら、その中に自分も紛れ込んでもいいのかもしれない。僕も東大を目指していいんだ』と思ったんです」

それからは、目標に向かって準備をする毎日になった。

「書類作成や面接対策にも、学校や地域の方々が協力してくれました。高校のある地域活動をする慶應大学の研究員など経験豊富な大人が周りにいたので、アドバイスもたくさんもらいました」

ただし、高校のある地域にはいわゆる大学受験予備校はない。だから、スマホでWEB授業が受けられる「スタディサプリ」を活用した。学校内にある町営塾のほか、学校の教師にも数学や英語の添削指導を受けていた。1人ではモチベーションが保てなかったため同級生を巻き込んで一緒に受験勉強の環境を作った。

合格発表の日、自分の番号を見つけたAさんはすぐに両親にメールを入れた。

「私は家でメールを見たのですが、びっくりの一言でしたね。東大に入れるなんて、地方の高校に送り出したときは考えてもいませんでしたから」(母親)