都会から田舎の山の中へ
Aさんが入学した高校では学校と地域社会を結ぶ「高校魅力化コーディネーター」が常駐するほか、同じ地域に暮らすさまざまな人たちが学校生活をサポートしている。地域の人たちが指導役となり、地元のことを実践的に学べる仕組みがあるのも魅力的だった。
「高校のある地域にも心惹かれました。城下町としての長い歴史を持ち、日本の文化や伝統が身近にある。畑や田んぼの景色も広がっていて、いいまちだなと思いました」(Aさん)
そして4月。2度目の入学式を終えたAさんの新生活が始まった。県外から入学した“留学生”は15人。学校の隣にある寮では1〜3年生が寝食をともにする。寝起きをするのは2段ベッド2つの4人部屋。朝6時40分に点呼があり、7時に朝食を取った後に登校。夜は20時半の点呼の後、就寝時間は基本的に自由だ。昼夜逆転の生活はすぐに規則正しい生活に改善された。
変わったのは生活だけではない。進路に対する考えも横浜にいたときとは変わった。
「入学した高校の卒業生は高校を出て専門学校に行ったり就職したりする人もいて、大学進学する人は4割くらい。卒業生の進路は多様です。僕自身も、当時は大学に行くつもりはなく、地域に触れながら自分の世界を広げることに力を注ぎたいと思っていました。だから勉強もほどほど。数学と英語はやっておいたほうが役立つかなと思って、少し力を入れたぐらいですね」
大学に行く気はなかったが…
そんなAさんの心境に再び変化が起きたのは、「グローカル・ラボ」という部活動を始めてからだ。地域系部活動と言われるように、部員は地域に出て行事や畑仕事などに加わり活動する。興味を持ったことに取り組めるのが大きな特徴だ。発足時に入学したAさんは部長を務めた。
横浜の両親とはたまにメールでやり取りをする程度。父親は、グローカル・ラボでの活動が始まってから、Aさんが元気になっていくのを感じた。
そのなかで掘り下げたテーマが「竹林」だ。
「高校のある地域では放置された竹林が増え、景観や生態系に悪影響を及ぼす危険があることを知りました。雪の重みで線路内に張り出した竹が、列車の運行を止めた“竹害”も出ています。竹林の問題を解決する方法を考えるため、竹林を貸してもらって自分たちで管理することにしたんです。たけのこ掘りなどのイベントのほか、地元の子供と竹に触れる機会をつくるために竹の飯ごうでご飯を炊いたり、竹馬をつくったり。一方で、竹林が放置されることになった歴史を学び、竹林が及ぼす周りの生き物や植物への影響を知るために大学教授に話を聞きに行ったこともあります」(Aさん)