「失敗してもいい」と考える父母
Aさんが選んだのは西日本の山間部にある小さな町の唯一の県立高校だ。1人で土地勘のない学校を見に行き、そのまま3年間を過ごす学校を決めてしまったAさんの行動力や決断力もすごいが、それを許した親もすごい。
なぜ、1人でこの学校に行かせることになったのか。
Aさんが育った家の子育てで一貫していたのは、「自分の意思で決めたらやらせてみる」ということだ。
「親が止めて失敗させないよりも、たとえ失敗してもやらせたほうがいい。その失敗もまたよい経験になると考えていました」(母親)
Aさんの家ではAさんが1人で遠出することは、この頃が初めてではなかった。母親には忘れられない出来事がある。
「小学校高学年のときだったと思います。地元の高専(高等専門学校)の科学教室に1人で参加させたことがあったんです。私は外で用事があって付いていけないから、会場までの地図やバス代などを息子に渡しておきました。用事を済ませて帰ると、家の前に子供のお財布が落ちていて、地図も入っている。財布を落として行けなかったのかなと思いながらも、高専に電話をしたら、『参加してますよ』って。お金がないので家から5〜6kmの距離を歩いていったそうなんです。あとから『場所はどうやって調べたの?』って尋ねたら、コンビニで聞いたと言うんです」
さらに中学2年生のとき、横浜の家から北海道の富良野にある祖父母の家に、青春18きっぷを使い、一人旅したこともあった。夜行列車と普通列車を乗り継いで2泊3日かけて向かった。
「最初は中学生が1人で? と思いましたが、こういうとき息子はプレゼンをするんです。時刻表で経路を調べて、何時にどこに着いて、ここで乗り換えてと細かく書いた計画表を作って、説明するんです。こちらとしてはそれだけされたらダメとは言えなくなる。そのときも『やってごらん』と、送り出しました」(母親)
思えば小学校低学年のときから祖父母の家に行くのに1人で飛行機に乗せたこともある。中学時代には友達と箱根に1泊の自転車旅行をする計画を立てて実行したこともある。こうした遠出の積み重ねがあったので、Aさんの家では息子が遠方に1人で出かけることにあまり抵抗がなかったのだ。