日本で起こる殺人の半数は家族間で起きている。犯罪加害者家族の支援を行ってきたNPO法人World Open Heart理事長の阿部恭子さんは「家族間で起きる殺人のなかには、第三者がきっかけとなって殺人事件が起きるケースがある。私が取材した村山家は長女の交際相手が一家を洗脳し、次男が殺され長女は加害者になってしまった」という――。

※本稿は、阿部恭子『家族間殺人』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

曇りガラスに人の影
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息子は長女とその交際相手に殺された

家族間で起きる殺人は、家族同士が憎み合った末に起きるとは限らない。家庭の隙間に入り込んだ第三者によって、加害者と被害者に引き裂かれてしまうケースもある。

「まもなく息子の命日が来ます……、この時期はいつも、心が苦しくて、尋常ではいられなくなります」

村山敏子さん(仮名・60代)の次男は、長女の交際相手に殺害されていた。長女も共犯者として逮捕され、傷害致死の罪で服役した。敏子さんは息子を失った遺族であると同時に、加害者家族でもあり、出所した娘を支え続けてきた。

「泣いてばかりいられません。娘のことも考えてあげないと……」

たとえ加害者になってしまったとしても、娘であることに変わりはない。しかし、この感情は周囲にはなかなか理解してもらえなかった。

ある朝、自宅の前に倒れている村山翼君(仮名・16歳)を、同居している兄が発見。翼君は病院に搬送されたが、まもなく死亡した。翼君は、数カ月前にも自宅前で重傷を負って倒れており、近所の住民が発見し、病院に搬送されていた。翼君の体には、暴力を受けたとみらる傷があり、警察署は要保護児童通告を出していた。

「翼君は大人しくて、とてもいい子でした。お姉さんは感じの悪い子でね、翼君を虐めていたみたいですけど、本当に酷い話ですよ。なんであんな惨いことができるのか……」

周囲は皆、一様に被害者に同情し、加害者を罵る。しかし敏子さんにとって、娘は「加害者であっても愛する我が子に変わりはない」。いつも、そう叫びたい気持ちになった。