外相時代は経産省主導の外交に不快感

岸田首相は対露外交で、安倍氏の「2島」路線から、国是の「4島」に戻す意向を示唆している。

安倍氏は2018年、シンガポールでの首脳会談で、歯舞、色丹2島の引き渡しをうたった1956年日ソ共同宣言を基礎にした交渉で合意し、事実上の2島路線に転換したが、ロシアはこれに応じず、独り相撲に終わった。

岸田氏は就任前後から、「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結するのが基本的な方針」と主張し、安倍氏の外交努力を評価しながら、「56年宣言」には言及していない。

10月8日の所信表明演説では、「ロシアとは、領土問題の解決なくして、平和条約の締結はない。首脳間の信頼関係を構築しながら、平和条約締結を含む日露関係全体の発展を目指す」と述べた。

7日に行ったプーチン大統領との電話協議について、岸田氏は「シンガポール合意を含め、両国間の諸合意を踏まえて取り組むことを確認した」と記者団に説明。日ソ共同宣言にこだわらず、他の合意も含めて交渉する姿勢を示した。

安倍政権下で4年8カ月外相を務めた岸田氏は、安倍首相に忠誠を尽くしながら、官邸主導のナイーブな対露融和外交には批判的だった。特に、今井尚哉首席秘書官ら経済産業省出身の官邸官僚について、「問題は首相周辺。正直、ちょっと違う世界の人間がいる」と不快感を周囲に漏らしていたという。(『消えた四島返還 安倍政権 日ロ交渉2800日を追う』北海道新聞社編、2021年)

これは、外交主導権を官邸に奪われた外務官僚の見解でもあり、岸田政権で対露外交は再び外務省主導になりそうだ。

現地メディアは「酒豪」と親近感を覚えているが…

岸田新首相について、ロシアのメディアは経歴から人柄まで詳しく報じており、米国などより強い関心を示した。

ロシアのネットメディア、「Lenta.ru」は、「岸田首相は日本政界有数の酒豪で、モスクワでのワーキングランチで、ウオッカのグラスを何度も飲み干した」と書いた。

外交誌「ディプロマット」は「岸田、ラブロフ両外相は日本酒とウオッカで飲み比べの競争を何度か行った。岸田氏はアルコールでコミュニケーションを円滑にする外交力を持つ」と書いた。ロシアは世界有数の酒豪国だけに、親近感を覚えるらしい。岸田氏の愛読書がドストエフスキーの『罪と罰』と報じたメディアもあった。

ただし、ロシアは岸田氏が「2島」から「4島」に転換しつつあることに警戒的だ。「論拠と事実」紙は、岸田氏は4島返還を目標に掲げており、日本人の中にも「大胆」「過激」とみなす人がいると指摘した。

ウオッカをグラスに注ぐ様子
写真=iStock.com/invizbk
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