労働市場をはじめとする規制緩和や郵政などの民営化を大胆に推進した小泉政権の経済政策は「小泉・竹中構造改革」と呼ばれ、市場重視の競争原理を前面に打ち出し「富める者をますます富ませる」新自由主義の典型とされた。

竹中氏は小泉政権の5年半で金融相や総務相も歴任し、霞ヶ関の官僚機構に幅広い人脈を築いた。小泉政権後も民間の有識者として規制緩和政策を中心に大きな影響力をふるってきた。

菅義偉前首相は小泉政権下で竹中総務相の下の総務副大臣に起用された。そのあと総務族議員として実力を蓄え、総務省は菅氏の政治基盤を支える重要な根拠地となる。菅氏は首相就任後も竹中氏と面会を重ね、経済政策のブレーンとした。竹中氏に近い元財務官僚の高橋洋一氏を内閣官房参与に起用。高橋氏が新型コロナウイルスの感染拡大をめぐる言動で辞任した後は、かつて竹中氏の大臣秘書官を務めた元経産官僚の岸博幸氏を後任に起用し、「竹中人脈」を公然と重用した。

菅氏は首相退陣を表明した後、総裁選に出馬表明した河野太郎氏を支援すると表明。竹中氏も河野氏支持に回ったとの見方が政界に広まった。河野氏はそもそも規制改革の推進論者で、総裁選でも規制改革の推進を主張した。

岸田首相が総裁選で「小泉政権以降の新自由主義からの転換」を打ち出したのは河野氏への対抗策であったのは間違いない。さらにいえば、河野氏を後押しする菅氏や竹中氏の影響力を政権から一掃するという宣言であったと私はみている。

結局、アベノミクスの主導権争い……

岸田氏を全力で支援した麻生氏は、小泉政権下で政調会長を務め、竹中氏と経済政策の主導権を激しく争った犬猿の仲だ。安倍政権時代は副総理兼財務相として官房長官だった菅氏と激しく「政権ナンバー2」の座を競い合った。岸田政権がこれから進める「竹中氏や菅氏の影響力排除」は麻生氏の意向を強く反映したものだろう。

岸田政権の「新自由主義からの転換」は、安倍政権が進めたアベノミクスを「竹中氏や菅氏を排除して麻生氏や甘利氏が主導するかたち」で進めるという、極めて政局的意味合いが強いメッセージである。岸田政権が衆院選を乗り切り、竹中氏や菅氏の影響力を一掃した後は「新自由主義からの転換」という看板はその役割を終えて次第に色あせ、「分配」重視の経済政策はなりをひそめていくのではないか。

金融所得課税見直しの撤回は、岸田政権の「新自由主義からの転換」が看板倒れに終わる未来を早くも予感させたのだった。

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