この4年間で“豊か”になったのは誰か

大企業の「儲けぶり」を映し出すデータが、売上高から人件費や原材料費などの費用を差し引き法人税や配当を支払った後に残る利益を積み上げた「内部留保」である。12年7~9月期は273兆円1556億円だったが、20年1~3月期は470兆8442億円に膨れあがった。日本企業はアベノミクスによる円安株高の恩恵を受けて大いに潤ったのである。

大企業が大儲けすること自体は必ずしも悪いことではない。その利益が労働者に広く「分配」されるのなら歓迎されるべきことであろう。ところが、アベノミクスのもとで労働者の賃金はほとんど変わらなかった。いや、円安(日本円の価値の下落)が進んだことで、労働者の「実質賃金」は下がったのである。

平均月給は12年11月(26万1547円)と20年6月(26万1554円)でほとんど変化はない。実質賃金はどうか。15年を100とした実質賃金指数は12年(年平均)の104.5に対し、20年(1~6月)は93.4。安倍政権の円安誘導によって、実質賃金はぐんぐんと下がったのである。企業の懐はみるみる膨らんだのに、労働者の財布はどんどん痩せ細ったのだ。アベノミクスがもたらした企業の巨額の利益は労働者に還元されなかったのである。大企業や富裕層がアベノミクスの果実を独占したといっていい。

恩恵を受けたのは「勝ち組」だけ

注目すべきは給与所得者の年収の格差だ。年収200万円以下は12年には1090万人だったが、18年には1098万人へ微増した。一方、年収1000万円超は12年は172万人だったが、18年は249万人へ大幅に増えた。労働者の大部分の賃金が上がらないなかで一部の「勝ち組」の年収は大幅アップしたのである。

硬貨の山の上に立っているミニチュアの人々
写真=iStock.com/hyejin kang
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雇用環境も格差が広がった。12年に35.2%だった非正規労働者比率は20年(1~6月)には37.2%へ上昇。企業経営者は円安株高で巨額の利益をあげながら労働者の非正規化を推進して人件費を削減したのである。安倍政権は完全失業率が4.1%(12年11月)から2.8%(20年6月)へ、有効求人倍率が0.82倍(同)から1.11倍(同)へ改善したことをアピールしたが、実態は「正規社員の非正規化」が進んで家計を支える働き手の賃金が低下した結果、高齢者や専業主婦らが低賃金で働かざるを得なくなったという指摘もある。

円安で企業の利益は増えているのに労働者の賃金は横ばいが続く。労働者は「賃金が上がらない」と不満を募らせているが、実際にはもっと深刻な事態が進行している。日本円の価値が下落しているのに賃金が据え置かれているということは、気づかないうちに「実質賃金」は下がっているのだ。