したがって、プラットフォームについても規模の経済が働き、よく知られているように、グーグルやフェイスブックが独占企業ないし寡占企業として君臨している。限界費用ゼロは、ITの雇用創出力が弱いことだけではなく、一部のIT企業に富が集中することの原因にもなっているのである。
「巨大企業以外は低賃金」の超格差社会が到来する
さらに悪いことに、プラットフォームでは「ネットワーク外部効果」が働く。これは利用者が多いほど利便性が増す現象を指す。古くは電話やファックスがそうだが、この効果の見られる分野では利用者が増えれば利便性が増し、さらに利用者が増大するという好循環が生まれる。極端な話、世の中に自分1人だけが電話を持っていても、掛ける相手がいないので、なんの役にも立たないだろう。
電話の所有者が多ければ掛ける相手も多くなり、電話の利便性は上昇する。検索エンジンやSNSは、ネットワーク外部効果を生じさせるようなプラットフォームサービスだ。
ネットワーク外部効果もまた、独占を生じさせる要因になり得る。なぜなら、利用者が多いほど利便性が高まるのであれば、やはり規模の大きい企業が提供するサービスがその利便性ゆえに利用されがちになるからだ。
したがって、このままいけば情報社会の未来は、暗澹たるものになる。富はGAFAのような企業に集中し、他に風変わりなソフトウェアやネットサービスを提供する企業がそこそこ儲けて、後は肉体労働に従事する低賃金労働者が大勢いるという超格差社会が到来するのである。
もう資本主義はやめるべきなのか
では、格差がもたらされるから、もう我々は資本主義とおさらばすべきなのだろうか? 既に述べたが、互酬が市場経済にとって代わる気配はないし、それが望ましいとも思われない。資本主義のオルタナティブは今のところあり得ないだろう。
ソ連邦崩壊後に立ち現れた、出口なしのように見える資本主義を「資本主義リアリズム」と言う。イギリスの批評家マーク・フィッシャーによれば、それは「資本主義が唯一の存続可能な政治・経済的制度であるのみならず、今やそれに対する論理一貫した代替物を"想像することすら"不可能だ、という意識が蔓延した状態」である(※)。
このリアリズムに対し取り得るスタンスが二通りある。一つは、資本主義を減速する立場で、もう一つは加速する立場だ。(『ゲンロン12』へつづく)
※Fisher, Mark. Capitalist Realism: Is there no alternative?, John HuntPublishing, 2009, p.2. 邦訳はマーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』、セバスチャン・ブロイ、河南瑠莉訳、堀之内出版、2018年、10頁、引用符原文。