かつて、ドイツの社会学者ノルベルト・ボルツは「われわれは、情報を与えられることによっていつも意見をもたざるをえず、態度を決めざるをえないのに、情報から自分の意見を形成できないでいる」と言ったが、それから四半世紀がたった今、情報に対する自分の態度や意見そのものを、与えられた情報の中から簡単に見つけられるようになっている。

ピッカーのコメントは、その最たるものだ。ユーザーは、その時々の気分や時流に合わせて、ピッカーらのコメントの中に、自分自身の態度や解釈枠組みを見つける。「実質わたし」はそこらじゅうにあるのだから、そこでは、一貫性などというものは必要ない。必要なのは「反射神経」だけである。

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哲学者のアルノルト・ゲーレンが言う、「事情通の世間知らず」とは、まさに私たちのことである。NewsPicksは、その意味では、結果的に「実質わたし」という感覚の広がりをうまくサービスにつなげたと言える。

ユーザーの「実質わたし」を刺激するためには

実質わたしの観点が生じると、「実質わたし」と思わせようとするサービスが登場するが、これは共感とは異なる。ユーザーは「実質わたし」を探しており、その意味で、NewsPicksは「実質わたしマーケティング」として他に先駆けた事例だと見ることができる。

NewsPicksに課金してコメントを読んで同様の意見を発信するユーザー、ゲーム実況を楽しむユーザー、彼らは承認や共感を求めているのではなく、それらの言葉や体験を「実質わたし」のものとして享受している。マーケティングを行う上で、両者の差異は極めて重要な視点だ。

この視点をマーケティングに利用するという意味で、どのような投稿が拡散力を生むのか考えてみよう。この場合、パクツイしたくなるような拡散力のある発信とは、いかに「実質わたし」として採用されやすい内容・形式が伴っているかが鍵となる。

私たちの調査では、少なくとも以下の点が重要である。

1 直感的・反射的に理解できるもの
2 反論される余地の無いもの
3 共有されている価値観や文脈を正当化するもの
4 共有されている価値観や文脈を外れずに、第3の視点を提供するもの