さまざまなサブスクリプション(定期購読)のサービスは、どれだけ利用しても費用は一定だ。「あなたへのおすすめ」といった機能もあるが、使いこなせていないと感じている人は多いのではないか。どこに問題があるのか。「Screenless Media Lab.」による連載「アフター・プラットフォーム」。第8回は「『ユーザー囲い込み』の限界」――。(第8回)
タブレットで観る映画を選ぶ女性
写真=iStock.com/diego_cervo
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おすすめの「パトロール」だけで終わってしまう

“見放題”、“聴き放題”という言葉にひかれて入会してみたものの、サービスを利用したのは初めの数日だけ、そんな経験はないだろうか。

時々アプリは立ち上げてみるのだが、メニューをスクロールするだけで結局、何も観ずに終わってしまう。そのうち、こうしたパトロールのために料金を払っている気すらしてくる。

パトロールから抜け出せないのは、あなたの責任ではない。これらは人間が生来備えている認知的な特質のなせるものであり、誰もがみな経験することである。さらにはサービスを提供するサービサー側も、このことを認識している。そして、あなたが業を煮やして解約してしまう前になんとか利用してもらおうと手を尽くしている。

今回は、このように私たちがその期待とは裏腹に結局コンテンツを楽しめないままに至る理由と、サービサーによる献身的な取り組みについて、そして結局はこうした問題を解決できない根本的な構造的問題の存在について取り上げたい。

各社の「囲い込み戦略」は限界を迎えている

娯楽コンテンツは今や、音楽や映画といった分類の枠を超えて、消費者の視聴時間(スクリーンタイム)を奪い合う形で互いに競合している。そこで注目されてきたのが、自社ユーザーが他社サービスを利用する機会を最小化しようとする「囲い込み」戦略だった。

利用時間や回数にかかわらず料金を一定に留めるサブスクリプションも、会員制サービスやアプリ形式で提供されるサービスも、囲い込み戦略の一環と説明されることが多い。

囲い込みを狙う配信事業者は、自社のサービスをデファクト・スタンダード(事実上の標準)として訴求し、コンテンツ利用のプラットフォームとなることを目指す。その手段は当初、音楽なら音楽、映画なら映画という枠組みの中で他社を圧倒するコンテンツをそろえ、ユーザーにとって不可欠な陳列棚(コンテンツ・アーカイブ)となることだった。

その一方で、この連載でも見てきたように、近年の消費者がコンテンツの選択について意欲を低下させたり、自分の好みやコンテンツ内容の理解ができていなかったりといった問題で、コンテンツを充実させオンデマンドを売り物にするという従来型のマーケティングは期待通りに機能しなくなっている。

スティーブ・ジョブズのセーターで有名になった話だが、私たちは何かしら意思決定するたびに、その都度、意欲・意志力を消費する。そしてこれらは限りある資源である。消費者がサービスを利用するたびにUIがこれを求め続けては、意欲はやがて枯渇し、サービスの利用を続けることは不可能となる。