ユーザーの負担をほぼ取っ払えている音楽アプリ

第3の事例として、音楽配信のサブスクリプションモデルを取り上げる。

音楽配信は通常、好みの楽曲を1曲ごとに視聴する、オンデマンドサービスと捉えられている。しかし実際の利用にあたっては、プレイリストとシャッフル機能が重要な役割を担っている。

プレイリストはユーザーがその都度コンテンツを選ばなくとも、一つのテーマでくくられたコンテンツを連続的に自動再生する仕組みであり、シャッフル機能はそうしたプレイリストをランダムに選択・再生する仕組みである。

この2つの機能により、ユーザーはオンデマンド化した「放送」聴取ともいうべき、受動的な音楽体験が可能となる。その代表例が、音楽配信サービス最大手のSpotifyが実装する「Mix」と呼ばれる機能である。

この「Mix」は、ユーザーの視聴履歴をもとに選好を分析し、好みにかなうと考えられる楽曲をプレイリスト化・シャッフル化するもので、ユーザーのコンテンツ選択負担を免除する役割を担っている。結果として、現状の音楽配信のサブスクリプションモデルは、

コンテンツ選択(①)……一部を負担免除
利用タイミング(②)……ほぼ負担を免除
購入判断(③)……都度支払いの負担を完全に免除

という段階に達している。

Spotifyのアイコンが映るiPhone
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Avid Photographer. Travel the world to capture moments and beautiful photos. Sony Alpha User)

好みの音楽をちまちまと選択しなければならない

しかし嗜好を把握する前提として、ユーザーのオンデマンドによる視聴履歴が必要になる。このため「Mix」機能を利用させるには、その前にユーザーに既存の音楽コンテンツやプレイリストを能動的に選択させる工夫が求められる。

Spotifyではさまざまな形態のプレイリストを用意してユーザーの誘導を図っているが、逆に多様なプレイリストの存在によって、ユーザーはどのプレイリストが自分の好みに合うのか、プレイリストをザッピングして確認する羽目になる。

このように「Mix」は、セカンドステップからは上手く機能するとしても、イニシャルステップにおける選択の負荷を免除することはできない。こうしてユーザーのコンテンツ選択の負担を免除する音楽配信事業者の戦略は、常に不完全に終わることになる。

履歴情報に基づくユーザーの選好の予測は、選択意欲を低下させたユーザーのニーズを充足させるための有力な手段であるが、ここ数年ですべてのユーザー情報は企業ではなくユーザーの財産と考えられるようになってきており、履歴情報の囲い込みもいつまで認められるか分からない情勢である。

仮にこうした問題を解決し、「Mix」機能を使うユーザーが多く現れたとしても、そのユーザーに完全な満足感を与えるのは困難である。

なぜなら人間には、自らの主体的な選択の働いていない対象には、満足を感じにくいという特性が存在するからである。