歴の長いファンほど恩恵にあずかれる

このモデルをユーザーに対する選択負担の免除という視点から見ると、注目されるのは、アーリーアダプターにおける①価値判断の免除、②開始の免除と③都度支払いの免除の連動性である。

新作コンテンツを無料のうちに読もうとすれば、サービサーが指定するコンテンツを指定期間中に見なければならない。結果として新作無料モデルはアーリーアダプターに対して、①、②、③を同時に免除するビジネスモデルとなっている。

選択意欲の低い一般ユーザーは、コンテンツ内容の吟味選択と価値判断を、自分と似た嗜好を持つと思われるアーリーアダプターに委ねる形になる。したがって一般ユーザーも、①のコンテンツ選択については価値判断を免除されている。

②のコンテンツの利用タイミングについては、一般ユーザーの場合、その作品が世情もしくは仲間内で評判になっていることがあえて有料で視聴する動機を形成しており、やはり期間が限定され、選択を免除されていると考えられる。

購入判断については、アーリーアダプターは無料で視聴しているため免除されており、一般ユーザーは都度支払いを求められる。ここではユーザーの種別による二面性が存在する。

生配信はネットマーケティングの非常識?

ちなみに、ユーチューバーやミュージシャンによる「生配信」も、このモデルの派生形態として捉えることができる。ここでは旧来のペイパービューではなく、生配信について取り上げる。

かつてネットコンテンツの価値は、好みのタイミングで好みの作品を選んで見られるオンデマンドにあると考えられていた。しかしオンデマンドではコンテンツ選択(①)、利用タイミング(②)、購入判断(③)という3つの選択すべてをユーザーに負担させることになる。

生配信は「放送」にあたり、決められたコンテンツを決められたタイミングで見なければならない、オンデマンドとは正反対のコンテンツ供給形態である。3つの負担免除の視点から見ると、コンテンツ選択の免除(①)は明確ではなく、利用タイミング(②)については一律なので免除があり、購入判断の免除(③)についてはやはり明確ではない。

こうした特性を持つ生配信が脚光を浴びたり、投げ銭などの新たな課金機構まで生み出したりしていることは、ネットマーケティングの常識を覆す事象として特筆に値する。

しかしながら、このように尖鋭化したコンテンツがコアなファン以外の新規のユーザーを獲得することはきわめて難しく、一般消費者を網羅する戦略とはいえないだろう。