お金に強い子を育てるにはどうすればいいのか。経済ジャーナリストの荻原博子さんは「トランプやボードゲームを使えば、危なくないようにお金のリスクを体験できる。投資教育はそれからでいい」という――。

※本稿は、荻原博子『親が子供に教える一生お金に苦労しない12の方法』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

トランプ
写真=iStock.com/baona
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「30万円!」と書かれたチラシを見つけた健一くん

8歳の健一くんは、小学校から帰って玄関に入る前に、郵便受けから手紙を取ってくるのが毎日のお仕事です。手紙と一緒に入っているチラシにはときどきピザの割引券などもついているので、そういうものもお母さんのところに持っていきます。

その日は、郵便受けに白地に赤く「30万円!」という字が書かれたチラシが入っていました。30万円がすごい大金だということは、健一くんも知っています。前にお父さんの給料を聞いたら、35万円だと言っていたからです。

まだ漢字は読めないのですが、カタカナはなんとなくわかります。そこには「カンタン」「チャンス」などの字が躍っていたので、「お母さん、すごいチラシが入っていたよ!」と早速お母さんに持っていきました。

「これで、お金持ちになれるんじゃないの」

それを見たお母さんは笑いながら言いました。

「う~ん、残念だけど、これじゃあお金持ちにはなれないよ」

「甘いセールストーク」の裏は、わかりやすく説明するといい

世の中には「いい儲け話がありますよ」という言葉が氾濫しています。けれど、甘いセールストークにはほとんど裏があります。

そうしたことに子供が興味を示したら、できるだけわかりやすく説明してあげましょう。

健一くんが持ってきたチラシには、「家でできるカンタンな仕事です。空いた時間を有効に使って誰でもできる仕事で、中には月に30万円くらい稼いでいる人もいます」とありました。

そのチラシを見せながら、お母さんは言いました。

「このお仕事を始めるには、まず、会社が用意しているパソコンを買わなくてはいけないって書いてあるでしょう。次に、会社がやっている講習会に出て、お金も払わなくてはいけないの。それに30万円くらいかかるけど、必ず30万円が手に入るわけじゃない。朝から晩までご飯も食べずにずっと働かないと、30万円を稼ぐのは難しいみたい。健ちゃんの面倒を見る時間もなくなっちゃいそう」

「えっ、そんなにずっと働いたら、病気になっちゃうよ!」

「そう。このチラシを見て、お母さんがやりますって申し込んだら、まず30万円を払わなくちゃならないし、健ちゃんやお父さんのご飯をつくってあげる時間もなくなるかもしれないし、病気にもなっちゃうかもしれないよ」

「そんなの、ダメだよ!」

せっかく儲かる話かもしれないと思ったのに、健一くんはがっかりしました。