「男社会」は専業主婦がいるから成り立っていた

田舎を出たい一心で勉強し、都内の名門大学に入った笛美さん。その後、新卒で大手広告代理店に就職。「バリキャリ」の道を歩み始めるが、会社では「男並み」を求められる一方、「女子力」が問われる婚活市場で苦戦した。

仕事ではもっと上に、もっと強く、もっと面白く奇抜に。
婚活ではもっと下に、もっと弱く、もっと愛想よくバカに。
——『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』(亜紀書房)より

初の著書は『ぜんぶ運命だったんかい』。男性優位社会の仕組みに気づいた時に吐いて出た言葉が、タイトルに採用された。

「女子同士でトイレに行ったりアイドルの話をしたりするのについていけなくて、ずっと女の子とうまくやれないことがコンプレックスでした。しんどくないフリをしていたけど、『なんで私はあの子たちと一緒になれないんだろ?』という気持ちがずっとあったんです。でも小さな町を、田舎を出れば、自分に合った世界があると思っていました。

東京の大手広告代理店に入った時は女性社員自体が少なくて、女は私だけ! 最高! と思っていました。そうして男社会に逃げ込んだわけですが、実態は、身の回りの世話をすべてやってくれる専業主婦がいて、仕事に没頭することができる男だけが社内で勝ち残れるという、ゆがんだ男性優位社会でした。私の苦労は私個人の問題ではなく、運命づけられたものだったんです」

台所で調理をしている人
写真=iStock.com/liza5450
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かつての私も「女性蔑視」の視点を持っていた

「ぜんぶ運命だった」ことを教えてくれたフェミニズムに恩返しをするような気持ちで、「笛美」として活動をはじめた。女性たちのアクションを促すきっかけになりたいと言う。

今年8月に起きた小田急線刺傷事件の際にもいち早く「#幸せそうという理由で私たちを殺さないで」とハッシュタグを作り、声を上げた。

「男性容疑者は『幸せそうな女性を殺したかった』と話していたそうですが、私もモテない暗黒時代、同じように歪んだ考えを持っていました。恋愛市場では、“高学歴バリキャリ女子”の私は、家でご飯を作って待っていてくれる家庭的な“キンピラの女”にいつも負かされていました。そういう意味でかつての私と彼は似ていて、女性蔑視がある。

でも悪いのは“幸せそうな女”じゃなく、彼や私を追い詰めてきた社会構造。女の人が、“男性の妻”や“子供の母”としてしか生きられないのはおかしいし、高学歴・高収入で一家の“大黒柱”になることだけが、男性の生き方ではないですよね。男社会の中で与えられた“役割”でなく、自分の好きな生き方をできない社会の方が問題。私も最近、やっとわかったことです」