「デモに参加した時はめちゃくちゃ怖かった」
筆者も、不特定多数に対して発信するTwitterでは政治的な発言をしょっちゅうしているが、顔見知りだけでつながっているFacebookやLINEでは、意識的にそういった投稿は避けている。まして子供の通う保育園のお父さんお母さんに「今秋の衆院選は必ず投票へ!」なんて、口が裂けても言えない。そして、そんな自分が本当に不甲斐ない。
「『森さんの発言ヤバいよね』みたいに、愚痴まではみんな乗ってくれるんですよね。でも、いざ国会議員にFAXとかデモに参加とかって実行に移そうとすると、周りがさーっと引いていく。
ただ私も、デモに参加した時はめちゃくちゃ怖かったです。通行人が冷めた目線を投げかけてくるし、プラカードを持っているだけで周りの人が奇異の目で見てくる感じがして。私がフェミニズムに目覚めるきっかけになった海外のとある国のように、デモがパーティーのような雰囲気でみんなハイになっていたら気にならないのに、日本はデモを取り巻く空気が硬いというか、怖いと思われてる感じがあるんですよね。
私が普段携わっている広告の世界は、世の中の空気を読んで、空気に馴染むものを作る。けど、デモって空気を壊すことで、反対なんです。加えて自分が極度のビビリということもあって、私にはハードルの高い行為でした。もちろん、デモ自体は意義のある素晴らしいことなので、これはもう私の勇気の問題かと思うのですが……」
“森さん的おじさん”を変えるのは無理
笛美さんは、職場では自分が「笛美」であることを伏せている。現状、経済活動と、フェミニズムの発信といった社会活動は完全に切り離していて、「会社員として社会を変えることは諦めている」と話す。
「会社では男女差別を助長しそうな“炎上案件”を起こさないようにしたり、『痴漢なんてないっしょ』と言っている人がいたら、『けっこうあるって聞きますけど』と言ってみたりして、ささやかな抵抗を続けています。
ただ『わきまえる女』発言の森さん(森喜朗・元東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長)じゃないですけど、ああいう人を変えることはもう無理だと思っていて。セクハラ・パワハラ発言ばっかりしているけど社内で権力があるから誰も何も言えず、アップデートできないままずっと放置されている。日本の会社にはそういう“おじさん”がわんさかいて、層が厚すぎて削っても削りきれません。
だから、“森さん的おじさん”を見ている若い人たちに、『ああいうこと言うと批判されるんだ。ヤバいな』と思ってもらうことの方が今は大事だと思っています。たとえその若い男性が心の中で女性を下に見ていたとしても、“男女差別的な発言は公の場で許されない”という認識が社会の中で形成されることが重要なんです」