2020年5月「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグがTwitterを騒がせた。最初に投稿したのは広告代理店勤務の30代女性、笛美さんだ。その理由は何だったのか。コロナ禍で政治に関心を持つことが増えたという、ライターの小泉なつみさんが話を聞いた——。
街を歩くスーツを着た人たち
写真=iStock.com/urbancow
※写真はイメージです

「まったく政治に興味のない人生を送ってきました」

新型コロナウイルスの流行から、政治に「ん?」と思うことが増えた。誰にとってもはじめての危機で、知見もなければ経験もない。だからこそ、自分の暮らす町、都道府県、国によって、対応の「差」が一目瞭然、よく見えた。

補償があれば仕事を休んで自粛できるのに、国や自治体は「お願い」ばかり。エッセンシャルワーカーより先に芸能人がワクチンを打てる不思議。1人の感染者でロックダウンをする国もあるのに、状況が悪化しようとも、世界中から人を集めてスポーツ大会を開催する国もある……。

笛美『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』(亜紀書房)
笛美『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』(亜紀書房)

納得できないことが相次ぐコロナ禍の中、「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグでTwitterデモを起こした女性がいる。フェミニストの笛美さんだ。このほど初の著作『ぜんぶ運命だったんかい』(亜紀書房)が発売された。

「笛美」は、「フェミニズム」の「ふぇみ」から取った仮名で、素顔は広告代理店勤務の30代女性である。笛美さんもまた、コロナ危機で政治に目が向いたという。

「まったく政治に興味のない人生を送ってきました。でも、コロナになってからアベノマスクとかお肉券とか、おかしいと思うことが続いて、はじめて国会中継を見たんです。

『#検察庁法改正案に抗議します』で一人デモをやったのも勢いで。YouTuberのせやろがいおじさんの動画で法案の内容を知り、いてもたってもいられなくなってTwitterデモをしました」

“みんなやってる”になれば、ツイート数はどんどん増える

笛美さんの行動は、ものすごく政治に精通してなくても、コロナで外に出られなくても、人脈やお金を使わなくても、政治に声を届けることができることを証明した。

また、オンライン署名サイトを運営するChang.org Japanによれば、同法人のオフィスがある全20カ国のうち、日本は2020年にChange.orgを使って声を上げた人の増加率が世界一だった(※)という。

※Change.org Japan「2020 Change.org Japan 活動報告

声を上げたい気持ちはある。でも目立つのはちょっと……。

そんな気持ちに、Twitterデモやオンライン署名はぴったり寄り添えたのかもしれない。

「『#検察庁法改正案に抗議します』は、“みんなやってる”水準までバズったから、誰もが気軽にツイートできたんですよね。ただ、それと同じ水準まで持っていくのは本当に難しいことで、なかなか狙ってできることじゃないとも思いました。

日本ほど“みんなやってる”が響く国はないんじゃないかと思います。出る杭になりたくないんでしょうね。でも、周りみんながやってないと行動に出られない・変われない日本人ってヤバいな、とも思っています」