郵便サービスのコペルニクス的転回

通常の郵便物は、受取人の住所と宛名が書いてなければ差出人に返送されるが、「特別あて所配達郵便」は住所さえ書いてあれば、宛名がなくても返送せずに郵便受けに入れてくる。

壁一面のメールボックスでの建物
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/JONGHO SHIN)

利用するためには年間1000通以上差し出すことなどが条件とされているうえ、1通あたり200円の特別料金がかかる。定形郵便物の封書(25グラム以内)は通常料金84円に加算されて284円、はがきなら63円+200円で263円と、かなり割高だ。

従来の郵便配達に比べるとコペルニクス的転回ともいえる新サービスだけに、日本郵便は、6月21日の開始から1年間試行し、様子を見て本格サービスに移行するという。

もっとも、利用条件をみれば、一般の人が利用することはほとんど想定されず、企業もダイレクトメール(DM)で使うにはコストがかかりすぎるため二の足を踏みそうだ。市場調査などでの活用は想定されるが費用対効果は微妙で、利用者の広がりは限定されるとみられる。

新サービスの試行開始から2カ月余。NHKは、広報の回答によると、9月初めの時点で「一部地域で、すでに試験的に利用を始めている」ということで、早々に取り組んでいるようだ。

一方、日本郵便は「サービスは開始しているが、差出人は個人情報になるので、差し控えたい」と控えめで、NHKのほかには目立った利用企業の話も聞こえてこない。

テレビ離れや受信料の引き下げ圧力が強まる中、受信料確保のためなら「何でもあり」という貪欲なまでのNHKの前のめりの姿勢だけがクローズアップされている。

きっかけは武田総務相の一声

新サービスが生まれたきっかけは、武田良太総務相が唱えたNHKの受信料徴収と日本郵便のネットワークの連携。総務省が所管するNHKと日本郵便の間で「何か協力することができないか」との一声から始まった。

武田総務相は2020年12月21日の記者会見で、受信料徴収の営業経費が700億円超にも膨らんでいることを問題視し、「2万4000局の郵便局のノウハウや力を受信料の徴収に活かすことができないか、実務者同士で研究してもらっている」と、自らが新サービスの仕掛け人であることを明かした。

妙案が見つかれば、NHKの膨大な営業経費を抑えられる一方、低迷する日本郵便の業績を押し上げられるという一石二鳥のグッドアイデアというわけだ。

そして、日本郵便が5月28日に試行を発表したのが「特別あて所配達郵便」である。