メディアの予測以上に無党派層が野党系候補へ流れた

都議選の情勢予測に関して論じた前回の記事でも述べましたが、無党派層などの政治への関心が比較的低い、政治から遠い人々ほど投票直前に投票先を決定する傾向があります。野党系の山中候補がそうした層から一定の票を得ることができたことが、事前の情勢報道の予測よりも差が開いた理由と考えられるのです。

【図表2】横浜市長選における各社情勢調査の候補得票率の試算
出典=朝日新聞、読売新聞、神奈川新聞各紙の記事、社会調査研究センターウェブサイト

この無党派層の動きは、報道各社にとっても予測を大きく上回るものだったと考えられます。図表2は、図表1の情勢報道の表現と世論調査の支持率を元に、その時点での各社調査の各候補の予想得票率を試算したものです。

ただしこの表では、表中に示さなかった政党の支持者からの得票は0とみなすなど簡略化した試算を行っており、正確性は追求していません。支持率等はあくまで仮置きで、実際とは大きく異なる可能性があります。ここでは情勢報道の表現との比較を見るために、小此木候補と山中候補の得票率の差を見ていただければと思います。

これを見ると、たとえば朝日新聞の情勢調査では、小此木候補と山中候補には大差がついており、また山中候補は2番手ではなく3番手だった可能性があります。現在の世論調査では自民党バイアスが強く、立憲民主党と共産党の支持率は低いので、無党派層での投票予定が伸びていない段階ではこのように大差がつくことは致し方ないと言えます。

それでも朝日新聞が小此木候補について「優位に立つ」ではなく「わずかに先行」と表現し、山中候補が2番手となったのは、両候補の得票率の差はもっと詰まると予測していたと捉えられます。予測式を用いることで、世論調査結果に含まれる自民党バイアスを補正し、さらに無党派層などの票が野党系候補に流れることを踏まえて、情勢調査の結果よりも野党寄りに予測したと考えられるのです。

しかし、こうした事前予測を大きく超えて無党派層から山中候補に票が流れた結果、小此木氏「わずかに先行」、あるいは3氏「横一線」の報道は外れたのではと想像することができます。

オートコール式の世論調査は立憲や共産の支持が高く出る傾向

なお、図表2のうち、神奈川新聞の結果は注意が必要です。同社は自前の世論調査を行っていないため、図表2の左では読売新聞の政党支持率を仮に入れています。これを元に試算すると、小此木候補の予想得票率のほうが明確に高くなり、「山中氏先行」とは表現できません。

同社が用いたのは自動音声による応答で調査を行う方式(オートコール)です。この方式は、高齢で政治関心の高い人々が回答しがちであることが知られており、無党派層が少なく、共産党や立憲民主党の支持率が一般の世論調査に比較して高くなりがちであることが知られています。

そこで、図表2の右側では、同様の方式の調査を行い細かい数字も公開している毎日新聞・社会調査研究センターの8月の政党支持率を仮置きして試算しています。これを見ると、山中候補が小此木候補をわずかに上回っています。支持率等はあくまで仮置きですし、高齢者バイアスの補正など細かい調整は不明ですが、おそらく「山中氏先行」と表現しうる結果が出ていたものと思われます。

言い換えると、神奈川新聞の「山中氏先行」予測は、多数の無党派層の山中候補への流入を的確に予測したためではなく、元々の調査の中に過大に立憲民主党、共産党支持者が含まれていたことにより生まれたのだと考えられます。

この点で注意したいのは、立憲民主党の枝野幸男代表が最近ラジオで明らかにした同党の独自調査です。同氏によれば、各小選挙区1000サンプル程度の調査を行った結果、十分に政権が代わる可能性があるという結果が出たとのことでした。

立憲民主党の予算で30万人近い規模の通常のRDD法世論調査を簡単に行えるとは思えませんので、同党が行ったのは低額で実施可能なオートコールによる調査ではないかと予想されます。筆者はここで述べたオートコール調査の高齢者・高関心層バイアスに惑わされているのではと察しましたが、どうでしょうか。