横浜市長選が衆院選の結果に直結するとは言えない

もっとも、地方選の結果は国政選挙を占うのに適しているとは言えません。選挙の構図や文脈がだいぶ異なるためです。まして横浜市長選は候補が乱立した特殊な選挙であったため、衆院選の結果に直結すると述べることはできません。

横浜市長選では、たしかに野党系の山中候補が大差で勝ちました。しかし、その得票率は33.6%と低く大勝とは言えません。この得票率でも勝てたのは、主に現職だった林文子候補が再出馬したことによる自民党支持者の票割れのためと考えられます。小此木候補の得票率21.6%と林候補の得票率13.1%を合計すれば34.7%となり、確かに山中候補を上回ります。

しかし、票割れが生じていなければ自民党系候補が勝利したはずというのも単純すぎます。林候補や4位以下の元知事らが出馬しなかった場合、それらの得票の一部は山中候補にも入ったと考えられるためです。

今回の市長選は法定得票(得票率25%)を超える候補がいないかもしれないと言われていたくらい有力候補が乱立した選挙でした。また、山中候補の33.6%という数字は2019年参院選で立憲民主党と共産党の候補が横浜市内で獲得した得票率(34.3%)と大差はありません。これだけの乱戦の中、候補を統一しても顕著な票の流出がなかったことは、野党にとって悪い材料ではありません。

ともかく、このように構図が複雑なため、ここから将来の衆院選を予測することは仮定に仮定を重ねるような議論になり、精度を欠くことになるのです。

【図表1】横浜市長選各社情勢調査結果、出口調査結果の要約表
出典=朝日新聞、読売新聞、神奈川新聞、日経新聞各紙の記事

選挙終盤に野党系候補に流れた無党派層

ただし、地方選の結果には、現状の有権者の意識や行動を探るヒントもあります。図表1は、横浜市長選に際して行われた情勢調査と出口調査についてまとめたものです。情勢調査には報道に際しての見出しも付しています。

選挙の情勢報道は、投票日よりも前に選挙結果を予想して伝えるものです。最も早く報道した朝日新聞では、小此木候補が「わずかに先行」としていました。次に報じた読売新聞では山中、小此木、林の各候補が「横一線」、同時期の神奈川新聞では山中候補が「先行」とされていました。

そして結果は、山中候補が次点に約12ポイントもの差をつけて当選しました。10ポイント以上の差を付けた参院1人区の選挙結果を参考にして情勢報道風に表現すれば、「山中氏が優位に立つ」となるでしょうか。情勢調査時点の予測よりも、山中候補と小此木候補の差は開いたのです。

この表を素直に読めば、野党系の山中候補が選挙期間を通じて支持を伸ばしていったということになります。そして、この際に特に伸びたのは、支持政党を持たない「無党派層」と名付けられた層です。

図表1には、最も詳細な数字を伝えた日経新聞の出口調査の数字を載せていますが、同紙(39.5%)だけでなく朝日新聞(39%)、NHK(40%台半ば)、読売新聞(4割強)と、山中候補はいずれの出口調査でも無党派層から多くの票を獲得したと報告されています。ただし、無党派層は投票しない割合が高いため、棄権予定者の回答も含む情勢調査と投票者のみが回答する出口調査とを単純に比較できないことには注意が必要です。しかし、日経新聞の出口調査で山中候補が無党派層から小此木候補の約3.6倍の回答を得たことを見ると、初期の朝日新聞の「分け合う」からだいぶ差が開いたと言えるでしょう。