十分に絶食時間が取れるとイヌリンは効果をより発揮する
先ほど朝食の方が夕食より腸の健康には効果的という実験結果を紹介しましたが、その理由の一つに、夕食前より朝食前の方が長時間、絶食状態だったという要因があげられます。絶食状態が長かった朝ほど、腸の蠕動運動がさかんである可能性が考えられるからです。
次に、イヌリンを含む食事を1日1食与え、朝の時間帯に食べるマウスと夜の時間帯に食べるマウスとを用意しました。すなわち、どちらの群も約20時間の絶食後4時間程度食べることになります。その結果、pH、短鎖脂肪酸量、腸内細菌叢の多様性において、朝食群と夕食群の差はなくなりました。以上のことから、十分に絶食時間が取れた後の食事が意味を持つことがわかり、ヒトでは一般的に朝食がそれにあたるので、朝食が腸内細菌の健康的な維持に重要な役割を果たしているものと考えます。
菊芋は朝に摂取する方が効果的
イヌリンや、菊芋、ゴボウなど水溶性食物繊維が豊富な食材は、腸内細菌に良い効果をもたらすことがわかったので、これを一般化できるか調べるために大豆由来の難消化性タンパク質を使った実験をマウスで行いました。タンパク質のうち30%程度が難消化性タンパク質である大豆タンパクを、マウスに朝もしくは夕に与えるという実験です。
この実験では、食事の摂取前から一定時間ごとに糞便を採取し、1日を通して見たときの短鎖脂肪酸量や腸内細菌叢の変化を調べました。この難消化性タンパク質の実験結果もイヌリンでの実験結果と類似していて、短鎖脂肪酸の量が増加し、pHの低下を引き起こし、腸内細菌叢の多様性が高まりました。この作用はそれぞれの食事の摂取4時間後の変化のみならず、1日を通して朝食摂取の方が夕食摂取よりも効果的でした。
そこでヒトについても、腸内細菌に対して、菊芋を朝食時に摂取した場合と夕食時に摂取した場合のいずれが効果的であるかを調べてみました。約30名の高齢者の被験者を2群に分け、7日間にわたり、朝食時もしくは夕食時に菊芋パウダー5gを水に溶かして飲んでもらいました。そしてこの実験を始める前と、7日間菊芋パウダーを摂取した後に、糞便を採取して、そのpH、短鎖脂肪酸量、腸内細菌叢の変化を見ました。
また、便秘尺度という指標を使って、菊芋摂取が便通にどのように作用したかについても調べました。菊芋摂取前と比較して、朝摂取群の人に便通が良くなった人が多いという結果になりました(図表2)。
ちなみに、被験者は全員、朝に大便を催す人たちであったので、最初に立てた仮説は「夕方に食物繊維を摂ると、そのことが翌朝の便通に良い効果を及ぼすのではないか」というものでした。市販の便秘治療薬は、夕方に摂取すると翌朝快便となるタイプが多いので、そう考えたのです。
ところが菊芋は朝摂取する方が効果的だったわけですが、その理由についてはわかっていません。考えられる可能性としては以下のようになります。