引退して20年以上たつ元名選手の評論家が分科会のトップ

こうした首をかしげたくなるような政府や国の対応は今に始まったことではない。

ピンクリボン
写真=iStock.com/Chinnapong
※写真はイメージです

アメリカやイギリスが1980年代に実質上、ゆとり教育的な教育をやめ、日本型の初等中等教育を取り入れた教育改革を行ったのに、日本では逆に1998年にゆとり教育といわれる学習指導要領を制定し、2002年から断行された。

なぜ、こんな頓珍漢な事態が起こるのか。

おそらく審議会の委員である教育学部の教授たちが若い頃に留学して、その頃の欧米の教育を理想化し、教授になってからろくに最新の状況を勉強していないから海外の教育改革の流れに気づかなかったのだろう。

そして教育国民会議座長としてこの政策を進めた、ノーベル賞受賞者の江崎玲於奈氏にしても、初等中等教育については経験がなく、彼が学長を務めてきた筑波大学、芝浦工業大学、そして現在所属する横浜薬科大学の教育が特段すぐれているという話は聞かない。

ノーベル賞学者というのは、その分野ですぐれた研究をした人に与えられるもので(しかも通常は20年以上前の研究で)、ほかの分野で優れているという保証はないはずだ。

これに対して、世界一の義務教育と言われるフィンランドでは、3年以上の教員経験がないと国家教育委員会のメンバーになれない。

いい加減、過去の実績はすごいがとても現役の研究者と言えないような人や東大のような一流とされる大学の教授(これだって、教授になってからは雑務に追われてほとんど自分では研究をしない人が多い)を政策ブレーンにするのをやめて、現役の研究者や臨床医、あるいはビジネスパーソンを重用しないと、海外と比べていろいろな点でますます遅れをとるだろう。

海外がバリバリの現役選手のチームなのに、こちらは引退して20年以上たつ元名選手の評論家のチームで戦っているようなものだ。

こうした現象は私の見るところ、医学の世界で顕著だ。大学の教授が人事権を握っているので、新しい理論がスタンダードになるためには、そういう人たちが引退するのを待たないといけない。医師で近藤誠がん研究所の所長である近藤誠先生が乳房温存療法についての海外の論文を紹介してから、それが国内で標準治療になるまでに15年もかかっている。

乳房を全部取らないとがんが再発すると患者に説明してきた権威の外科医たちがメンツを潰されたと怒り、彼らが引退するまで部下たちが忖度し続けたからだ。

私は現在、その近藤先生と対談形式の書籍を作っている。共著者だから言うわけではないが、近藤先生のコロナの病態やワクチンに対する読書量には本当に舌を巻く。

私は「高齢の学者」を問題にしているわけではない。大事なのは、現役かどうかだ。高齢でも現役の学者は世界中にいる。

海外の質の高い雑誌(大学教授などの論文で引用回数が多い雑誌)に掲載される国別のランキングでは中国がトップだ。日本は最近、インドにも抜かれ10位になった。人口が半分もいない韓国にも肉薄されている。

日本において、「昔の名前で出ています」のような学者を頼りにしても大きな問題にならないような時代はとっくに終わっている。当時は、政治家や官僚がそれなりに能力を持ち、同時に民間の研究や開発能力も世界屈指のレベルだったが、今はそれを望むべくもない。

本連載でも述べ続けてきたように、「賢い人でも突如バカになる」ということは珍しくない。今の時代は勉強し続けていないと賢い人が簡単にバカと言われるレベルに転落しかねない時代だ。

ポストワクチンの日本のコロナ対策を含め、日本は古臭い理論にとらわれることなく、新しく多様な意見を積極的に取り入れられるシステムを採用すべきだ。

【関連記事】
あ、やっちゃった…「沸騰させた味噌汁」がコロナ予防になる理由
「ワクチン打ちたくねぇ」感染しても軽症か無症状の20代が接種後の副反応を嫌う当たり前
「コロナ自宅療養は感染者を増やすだけの愚策」在宅医療のプロが憤りを隠さないワケ
「もしも入院制限にあったら…」コロナ自宅療養でわが身を守るために必須の"ある医療機器"
メンタル不調のときにまず食べるべき最強で手軽な「うつぬけ食材」