2020年、アメリカ海軍大学校などが「台湾有事が起きれば、米国は中国に負ける」というシミュレーションを発表した。なぜそんな屈辱的な結果を公表したのか。戦略国際問題研究所上級顧問のエドワード・ルトワックさんは「それは議会に対して艦船の購入を説得するためだ。実際には中国海軍の力は想定よりも弱く、台湾有事はアメリカの原子力潜水艦が3隻あれば解決できる」という――。
※本稿は、エドワード・ルトワック著、奥山真司訳『ラストエンペラー習近平』(文春新書)の一部を再編集したものです。
中国は本当に「世界一の海軍」を保有しているのか
2020年9月にアメリカ国防総省は「中国の軍事力についての年次報告書」を公開し、中国の海軍力はアメリカを凌駕し、「世界最大の海軍を保有している」と発表している。
またアメリカ海軍大学校やランド研究所などのシミュレーションでも、中国が台湾に侵攻した場合、中国海軍が勝つという結果が出たことが、ニュースとして報じられた。しかし、ここで考えなくてはならないのは、彼らがなぜこうした発表を行うのかということだ。
彼らがやっている戦力分析やシミュレーションの目的はただひとつ、連邦議会に対してもっと艦船を購入してくれるように説得することにあるのだ。台湾有事に備えて何をなすべきかは後で詳しく論じるが、ここではひとつだけ重要な事実を指摘したい。
国防総省のいう「世界一の海軍」とは艦船の数などを指しているが、アメリカの攻撃型原子力潜水艦がたった3隻あれば、台湾海峡のすべての中国艦船を撃沈できるということだ。
1982年のフォークランド紛争において、イギリスは1隻の原潜を南大西洋で潜航させていたが、このたった1隻によってアルゼンチン海軍は敗北した。原潜からの魚雷が、アルゼンチン海軍最大の軍艦「へネラル・ベルグラノ」を沈めたのだ。
ところが米海大などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはない。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的を潰してしまうことになるからだ。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、アメリカが圧倒的であることは疑いがない。