中国海軍は敵の船を沈めたことがない
たとえば空母に関しては、今後30年、何も対策を打たなかったとしても、アメリカの優位は変わらないだろう。これは戦闘機同士の戦いでも同様だ。
中国もアメリカもそれはよく分かっている。だから軍事力による直接的な衝突の可能性は、現時点ではきわめて低い。したがって戦略分野での主戦場は、もっぱら前章で論じたような外交戦略の領域となっているのだ。
そして、その「同盟の戦略」の領域では、中国はさらに弱いのである。そもそも軍事力を比較する場合、兵器の総数などを比較するのはあまり意味がない。なぜなら、どんな軍の構成が有効かは「シナリオによる」としか言えないからだ。
どこでどのような紛争を行うかによって、有効な戦力は変わってくる。たとえばベトナムのジャングルやアフガニスタンの山地での戦いを思い出してみればいい。米軍がいかに圧倒的な兵力を有していても、その威力を十分に発揮させなければいいのだ。
もうひとつ、中国軍について指摘しなければならないのは、彼らがほとんど勝利したことのない軍隊であることだ。
たとえば中国海軍は敵の船を沈めたことがない。ベトナムの巨大な漁船を沈めたことがあるが、それは非武装の船だった。もちろん中国海軍は艦船の数を増やしているし、その性能も向上している。制度化された組織やピカピカの制服なども用意できている。
それでも彼らが他国の公式な海軍の船を沈没させたことはないという事実には変わりない。これまでの歴史、とくに近代の歴史において、他国の海軍の艦船を沈めたことのない海軍をもっている国が戦争に勝ったためしはない。
人民解放軍の陸軍の実力
海軍についてはそもそもまともな海戦を経験していないので、強いか弱いかは判断できない、というのであれば、陸軍の戦歴をみてみよう。たとえば日中戦争では、戦闘においては、ほとんど常に日本軍がわずかな兵力で中国側を圧倒していた。
朝鮮戦争の「長津湖の戦い」などでも、中国人民志願軍は激戦の末、国連軍となっていた米海兵隊を撤退させたが、数でまさっていた中国側が圧倒的な被害を出したことがわかっている。ベトナムに侵攻した時も負けている。
このように、人民解放軍の陸軍の弱さは歴史的に証明されているのだ。これを文化論として考察することも可能だ。たとえば日本では650年以上にわたって武士による統治が行われていた。近代に入っても、軍人出身の首相は少なくない。
アメリカでもほとんどの大統領が軍隊経験を持ち、ワシントンやリンカーン、セオドア・ルーズベルト、アイゼンハワーなどは軍の指揮官としても実績を残している。イギリスのチャーチルやフランスのナポレオン、ドゴールの例を挙げてもいいだろう。
つまり、これらの国には戦うことを尊重する文化がある。それに対して、中国は素晴らしい料理を生み出し、博物館を飾るような見事な文物を数多くつくってきた高度な文明がありながら、軍事を軽侮する伝統が顕著にみられる。
そもそも中国が領土を拡大した時期は、元や清に代表されるように、異民族による征服王朝なのだ。漢民族はあらゆる点で優秀だが、戦争だけは拙劣なのである。