「ハッピーハイポキシア(幸せな低酸素血症)」という深刻な状況
健康な成人が急に酸素飽和度が90%以下になるような低酸素血症に陥ると、通常は強い呼吸困難感に苦しめられる。医大生の実習でパルスオキシメーターを装着した後に「酸素飽和度が90%になるまで息を止めて」と指示しても、9割以上の学生は苦しくなって脱落してしまう。
ところがコロナ肺炎では、ウイルス感染によって酸素飽和度が70~80%のような重度の低酸素血症の状態になったにもかかわらず、患者が「息が苦しい」と訴えないことがある。そのため重症化の発見が遅れることが問題となっている。
この現象を科学雑誌『サイエンス』が「ハッピーハイポキシア(happy hypoxia:幸せな低酸素血症)」と呼んだことで世界中の医療関係者に知られることになった。
日本でも「自宅療養していたコロナ軽症者に医療機関が電話で容体を確認しても特別な訴えがなかったので特に警戒していなかったところ、その後に急変して死亡」というケースが報道されている。その陰には、ハッピーハイポキシアがあった可能性が指摘されている。
中等症コロナで自宅療養を指示されたら~うつ伏せの効用~
コロナ中等症と診断されたものの、自宅療養と指示された場合、どんな治療がほどこされるのか。コロナ治療の基本は「酸素投与」と「ステロイドを中心にした薬物治療」であり、これは在宅療養でも変わらない。「一瞬で治る魔法の薬」「神の手を持つコロナ名医」は存在せず、「肺組織とウイルスの闘いに耐え、そのダメージからの回復を待つ」という地味な治療方針となる。
さらに自宅で可能な治療法を追加するならば腹臥位療法、要するに「うつ伏せで寝る」ことだろう。肺炎の療養中は長期間仰向けで横たわっている時間が多いので、どうしても背中側の肺組織に分泌物が貯まってダメージを受けやすい。
そこで、意図的に腹臥位の時間を設けて、肺の背中側のダメージを軽減すると、肺炎の重症化を予防できることが、かねて知られていた。コロナ肺炎も例外ではなく、今も多くのコロナ病棟で人工呼吸器やECMO使用中の重症患者を、うつ伏せにすることで肺を守っている。
腹臥位の有用性は中等症コロナにも共通する。パルスオキシメーターで測定すると、「仰向け→うつ伏せ」にするだけで酸素飽和度が2~3%上昇することもある。
もし「完全うつ伏せ」が困難ならば、枕などを活用して「左斜め下」「右斜め下」とパルスオキシメーターの数値を参考にしつつ交互に体位変換するのも有用である。自分や家族が感染した際の対処法として覚えておきたい。