多数の人々が薬に頼らず寛解に至っている事実
一方で、産業医が内科医など非精神科医の場合は、しばしば従業員が紹介され当院を受診します。笑い話に聞こえるかもしれませんが、当院に製薬会社の社員が営業に来ることはありませんが、こっそり患者として受診することはよくあるのです。
誤解なきようつけ加えておきますが、精神科産業医のなかにも当院の治療方針に共感してくださる先生はいらっしゃいます。長年安定就労できていない職員に、こっそり当院への相談を勧めてくださったり、復職後も職場で呼吸法を指導してくださったりするのです。しかし、このような例はまだまだ本当にわずかなのです。
先日、日本うつ病学会が、働く双極性障害の患者さんの治療体験記を、学会フェロー医師に対して募集しました。学術学会がこのような取り組みをすることは、過去になかったように思います。これは、まさに前述の「NBM」の応用になるものと期待しています。
当院からも多くの患者さんにご協力いただき、提出させていただきました。体験記を読めば、医師がどんな治療を行って、その結果がどうなのか一目瞭然です。
当院の患者さんの共通点は、その多くが最終的に漢方薬以外の薬を使っていなかったという点です。漢方薬で治るというエビデンスはない、という専門家もいるかもしれません。しかし1~2例ではなく全症例が、同じ治療を受けて同じ結果となっているのです。多くの患者さんが、薬に頼らず寛解に至っているという事実は誰にも否定できません。まさに“The proof is in the pudding.(編集部注:プディングの味は食べてみなければ分からない=「論より証拠」)”なのです。
もちろん、私は精神科医療のすべてを否定しているわけではありません。既に医療崩壊を起こしつつある現場において、今この瞬間も身を削るような思いで臨床・研究に取り組まれておられる先生方を尊敬しています。それに、来る患者さんを断らない医療の大変さは、過去に私自身が身にしみて知っていることでもあります。
しかし精神科医療批判は、すでに外部から静かに確実に精神科医療の世界に染み込んできているのです。このままでは精神科医療が社会から何も期待されなくなるのではないかという危機感を覚えるのです。