薬に頼らず、生活習慣と考え方を変える
当院では、抗不安薬と睡眠薬はいっさい使いません。抗うつ薬投与は、この8年間で2症例だけです。気分安定効果が期待できる、非定型抗精神病薬や気分安定薬を一時的に使うことはあっても、最終的には漢方薬だけに絞り込みます。漢方薬の力を借り、生活指導を徹底的に行い、脳のコンディションを整え、認知を整えるためのコーチングを行います。そして対人関係に焦点をあてた具体的な介入を行います。
「漢方薬だけで治るんだろうか? 生活習慣や考え方を変えるというだけで本当に今のつらさから解放されるんだろうか?」
自らが選んだはずの“薬に頼らない治療”なのに、治療の初期段階においては、必ずこう疑ってしまう時期があるのです。そんな迷いを消し去ってくれるのは、グループセラピーに参加する多くの先輩患者さんの存在です。彼らの回復を目のあたりにして、迷いがなくなっていくのです。そして“治療終結”に向かって自ら舵を切り、自らのモチベーションを動力として進んでいくのです。
「復職後再発率0%」という圧倒的効果
当院での治療後、復職時によく起こる象徴的な出来事をご紹介します。
患者さんの職場の上司や産業医などは、よくこう言います。
「薬なしで、生活指導や呼吸法で病気が治るなら苦労しないよ」
再発必至だと彼らは思うのです。生活指導やコーピング、認知行動療法といった非薬物療法に対する世間一般のとらえ方はその程度にすぎないのです。
産業医が精神科医の場合は、その傾向はもっと強まります。
「漢方薬だけで病気が治せるか! それで治るなら苦労しない! ちゃんと薬飲め!」
復職時面談で患者に突然怒り出す精神科産業医もいました。患者さんは当然ながら困惑することになります。長く厳しい治療に耐えて、ようやく主治医である私から復職許可が出たというのに、褒めてもらえるどころか、思わぬ攻撃を受けるのですから……。
ところが復職後、1年、2年と経過するうちに、精神科産業医が「君の飲んでいた漢方って何だったっけ?」と尋ねてきたり、人事課長が「君の通っていたクリニックに○○君も受診させたいと思うんだが」と言い出したり、会社の食堂で上司から突然「じつは、うちの娘も精神科へ長い間通院しているんだが、なかなかよくならないんだ……」と相談を持ちかけられたりするようになるのです。
治療終了後1年以上経って、職場がやっと治療効果に気づきはじめます。そして従業員を大切にしている会社は、第2、第3の患者さんを当院へ送ってきます。こうして当院は少しずつアライアンス企業を増やしてきたのです。