朝日新聞が抱える深刻な現状
共同通信によれば、「朝日新聞社が26日発表した2021年3月期連結決算は、純損益が441億円の赤字(前期は106億円の黒字)だった。赤字額は1879年の創業以来で最大。売上高は前期比16.9%減の2937億円で、同社は『新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた』と説明した」
朝日新聞朝刊に掲載されたのは翌日の27日。社長の中村史郎は4月に就任したばかりである。社長や幹部たちが辞めざるを得なくなった「慰安婦報道の吉田清治(故人)の話を虚偽とした問題と吉田調書問題」の時は広告局長だったが、幹部人事に狂いが出たため、異例の出世を遂げたといわれているそうである。
新聞の売り上げも頼みの不動産収入も落ち込み、本業の儲けを示す営業損益は70億円の赤字(前期は23億円の黒字)だった。
早期退職も勧めてきたが、辞めていくのは優秀な記者が多いため、人材不足も懸念されている。
この未曽有の大赤字から目を背けさせるために、五輪中止社説をこの日に持ってきたのではないのか。
五輪を中止せよと社説で迫られた菅首相は、「朝日も大変だね。広告主から怒られてるみたい」と、周囲に余裕の言葉を漏らしたという。朝日論説陣が勢い込んで書いた社説も、菅首相や東京五輪関係者たちに軽く受け流されてしまったようだ。
ここに、朝日新聞が抱える深刻な現状があると、私は考えている。
尾身会長の五輪批判発言にもだんまり
ジャーナリズムを自称するのなら絶対にやってはいけない国際大会のスポンサー、それもランク上位のオフィシャルパートナーに朝日をはじめとする大メディアがこぞって参加してしまったことが、最大の誤りであったことはいうまでもない。
そのため、普通に考えれば中止か再延期しかないコロナ感染拡大の中でも、はっきり主張できず、どちらともつかない紙面を垂れ流し続けてきた。それでも5月の朝日の世論調査で、中止と延期が合わせて8割を超えたのは、新聞を含めたメディアの世論への影響力のなさを如実に表している。
五輪中止社説を掲載して以来、これを書いている6月8日まで、朝日は同様の論調の社説を掲載していない。
6月2日、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、衆院厚生労働委員会で、東京五輪・パラリンピックについて、「今の状況でやるというのは、普通はない。このパンデミックでは。その状況でやるのであれば、開催規模をできるだけ小さくし、管理体制を強化するのが主催者の義務だ」との認識を述べた。
「五輪をこういう状況で何のためにやるのか、目的が明らかになっていない。関係者がビジョン、理由を述べることが極めて重要で、それがないと一般の人は(感染対策に)協力しようと思わない」とまで踏み込み、菅首相を含めた東京五輪関係者に対して痛烈な批判をしたのに、翌日の社説では触れていない。