当時、無制限受け入れを積極的に進めたのはメルケル首相だったが、これについては彼女自身が2018年、イスラエルのテレビ放送のインタビューに答えてこう語っている。

「私たちは、難民、およびアラブ系の人々を受け入れたことで、新しい現象に直面しています。それは、新しい形の反ユダヤ主義が、再び国内に持ち込まれたということです」と。

彼らの感情を利用し、暴発させたか

実際問題として、以来、ユダヤ人に対する嫌がらせや襲撃が急増し、それが頻繁に報じられるようになった。

ユダヤ人中央評議会のドイツ支部代表のシャルロッテ・クノブロッホ氏は、ミュンヘンの日刊紙Merkurのインタビュー(6月1日付)で、「反ユダヤ主義がこのような形で再燃するとは思ってもみなかった」と語り、このままではユダヤ系の人々がドイツでの将来の生活に対する信頼を失うことを警告した。実際、子育て中の若い家族の間で、イスラエルへの移住を考えたり、あるいは、すでに踏み切ったりするケースが増えているという。

ちなみに、1932年生まれのクノブロッホ氏はナチ時代の生き証人でもある。

破壊された都市を歩いている2人のホームレス
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これらの状況を総合すると、今回の暴力的なデモは、イスラム原理主義の拡大を目指す過激な組織が、中東紛争を利用し、さまざまなアラブ系の若者たちを引き込み、もともと、彼らの中に潜んでいた反ユダヤ感情を暴発させたものだという仮説が成り立つ。そうだとすると、その責任の一端は、長年、有効な移民政策を敷かなかったドイツ政府や、難民を無制限に入れたメルケル首相、それを支持した左派勢力やメディアにもあるのではないかということにもなる。

ドイツ人の偏見度合いを調べると…

それに加えて、今回の暴動は単にアラブ系の人たちだけの問題ではなく、実はドイツ国民の間にも、今なお根強い反ユダヤ主義が潜在しているのではないかという疑問も生んだ。これが事実だとすると、75年間、反ユダヤ主義の撲滅に励んできたはずのドイツ人にとっては、極めて深刻な事態だ。

5月18日、Die Welt紙のオンライン版に興味深い記事が載った。ユダヤ人の経済モラルについて、ドイツ人が偏見を持っているかどうかというテーマで、ドイツ人経済学者2人が行った調査結果だ。

調査は単純で、124人の被験者に次のような文章を示し、そのモラル度を問う。

「XYは1974年にミュンヘン生まれで、現在45歳。ミュンヘンのIT企業で中間管理職の一員として働く。叔母から5万ユーロの遺産を受け継ぎ、それを子供達の学費として活用するため、ドイツと米国の企業の株に投資した。株の選択は、自動車、薬品、鉱物資源を扱う企業に重点を置いた。今後、大きな市場の動きに対応するため、株の動きをスマホでフォローするつもりだ」というものだ。