いうまでもなく、ホロコーストを絶対悪と定めるドイツでは、イスラエルには常に気を遣い、ユダヤに関する非難めいた発言は、それが差別であろうがなかろうが許されない。それどころか、反ユダヤ主義的言動は刑法に触れる。ホロコーストは絶対に忘れてはならず、近年は、政治家が「記憶の文化」などという新造語まで作り、国民の贖罪意識の風化を防ごうとしてきた。

ユダヤ人を憎悪する人々は何者なのか

そんな国で、あたかも75年の空白を破るかのように、突然、反ユダヤのプラカードが掲げられ、ユダヤ冒涜のシュプレヒコールが響き渡ったのだから、その衝撃は大きかった。当然のことながら、国中で一気にユダヤ議論に火がつき、まさにパンドラの箱の蓋が開いたかのようだった。

論点は複合的だ。最初の疑問は、デモで反ユダヤを叫んでいるアラブ系の人たちはいったい誰なのかということ。

アラブ人(イスラム教徒)とユダヤ人(ユダヤ教徒)は骨肉相食む仲だが、ドイツにはそのイスラム教徒が多く暮らす。例えば70年代に労働移民として入ったトルコ人や、内戦から逃れてきたレバノン人。その数は膨大ではあるが、しかし、彼らの多くはすでにドイツ国籍を取得し、今や4世が育つ。もちろん、2世以上は皆、ドイツで教育を受け、社会に根付いているため、今回の暴動の主役ではありえない。それどころか、彼らなしではもはやドイツ社会はまともに機能しないと言ってもよいほどだ。

ハンブルクのトルコ人地域に住む人たち
筆者提供
ハンブルクのトルコ人地域に住む人たち

新たな反ユダヤ主義が持ち込まれている

ところが、移民の中には、都会の一角に独自の生活を送る並行社会を形成し、全くドイツ社会に溶け込まない人たちもいる。

ドイツ人にはホロコーストの強いトラウマがあり、特に政治家は今でも、外国人に対して何らかの要請を行うことにひどく消極的だ。そのためドイツ政府は、何十年ものあいだドイツが移民受け入れ国であるということを認めず、外国人租界のようになった一角が犯罪の温床、あるいは、イスラム過激派の根城となっていっても目をつむった。反ユダヤ主義がそういう場所でしっかりと温存され続け、今の反ユダヤ主義の暴発につながっている可能性は確かにある。

それに加えてドイツには、2015年と2016年に受け入れた膨大な数の中東難民がいる。彼らが「ユダヤ憎悪」というアラブの常識を、おそらく無意識のまま、ドイツに持ち込んだことは疑いの余地がない。