性風俗の世界には「業界」が存在しない
——初めての緊急事態宣言から1年が過ぎ、いままた緊急事態宣言下にありますが、風テラスによせられる相談に変化はありますか?
コロナの影響で収入が減り、路頭に迷っている人の相談がずっと続いている状況です。この1年、事情を聞き、支援情報を伝え、場合によっては生活保護の申請を勧めるという対応を繰り返してきました。
いま日本全国に約3万店舗の事業所があると言われています。しかしコロナ禍の1年を振り返ってみて感じたのは、性風俗の世界は本当に「業界」と呼べるのかという疑問です。
昨年4月、初めての緊急事態宣言が出されるにあたり、休業補償制度の対象から「接待をともなう飲食店」と「風俗業」が除外されたことがSNSなどで話題になりました。
性風俗に社会的な注目が集まるなか、風テラスでは「風俗営業等を、休業補償の不支給要件から外してください!」と名付けた署名キャンペーンをはじめました。
当事者たちで団結できず、集団訴訟が頓挫
私たちは「性風俗で働くリスクを減らす」「性風俗と公助をつなぐ」などを目標に掲げて、活動を続けてきました。性暴力や性感染症などの身体的リスクだけではなく、福祉や支援につながりにくいという社会的リスクも減らしていく必要があります。こうした目標を実現するチャンスなのではないかと考えたのです。その後、約1万筆の署名が集まり、風俗店への休業補償が正式に決まりました。
そこまではよかったのですが、性風俗事業者は持続化給付金の対象からは外されてしまった。関係者が「職業差別ではないか」と抗議しましたが、政府の担当者は「過去の政策との整合性がとれない」と繰り返すだけ。私たちも署名キャンペーンや、メディアを通した広報などを行いましたが、国の決定を変えることはできなかった。
そこで持続化給付金の支給対象外になった性風俗関係の事業者で原告団を結成し、国を相手に集団訴訟を起こせないかという可能性を探りました。コロナという非常時に当事者がまとまることができれば、性風俗で働く人たちにとって大きなプラスになるのではないか、と。
でも結果から言えば、集団訴訟は頓挫してしまいました。業界として、ひとつにまとまり、声をあげようという事業者がほとんどいなかったのです。