「業界全体の利益」という発想がない
——コロナ禍で、ホストやホステスの業界団体が政府に支援を求めて話題になりましたが、性風俗の世界ではそうした動きにならなかった。その原因はなんだったのでしょう。
風俗店で働く女性だけでなく、運営側の入れ替わりも激しい。事業者も女性も長期間、働こうと考えていない……。いろいろな原因が考えられますが、シンプルに「業界全体の利益」や「業界の未来」という発想や視点がない。
性風俗の世界では、ほとんどの人が身元を隠して働いているでしょう。みな風俗嬢である以前に、学生であり、母親であり、主婦であるという意識を持っている。当事者意識を持ちたくないし、持てないし、持ちにくい世界なのではないかと思います。そのせいか、いままでも当事者が社会に向けて声をあげるケースはほとんどなかった。それに「自分たちの仕事は差別されても仕方ない」という意識が浸透しているのも見逃せません。
また風俗店と言っても、激安店から高級ソープまでさまざま。サービスも多様だし、女性の収入にも大きな格差がある。
一部の高級店に勤務する女性たちは、コロナ禍でもダメージが少なかった。常連客の指名だけでやっていける。収入を投資や経営資金に回す女性も少なくありません。なかには、困っている女性の支援に使ってください、と風テラスに多額の寄付金をくださった高級ソープで働く女性もいたほどです。一方、激安店で働く女性は、今日食べるもの、住む場所もないほどに追い詰められていた。
働き方、生き方、考え方が全く異なる人たちを、「当事者」「風俗嬢」と一緒くたにすることに無理があったのかもしれません。
性風俗は炎上要素が詰まった火薬庫
——だからこそ個別支援を続ける風テラスのような団体の活動が大切になってきますね。
実は、そのあたりも難しい問題なんです。先ほども話したように、性風俗の世界では、基本的に当事者が発信しない。そこで登場するのが、当事者の声を代弁する人たちです。
当事者がほとんどいない「当事者団体」や、実績のない「支援団体」の活動家が、SNSで、当事者の声を代弁し、立場の違う意見に反発したり、ほかの団体を批判したりする。
しかも性風俗ってさまざまな論点が詰まっているでしょう。風俗店で働くこと、利用することの是非にはじまり、性差別や職業差別、性的搾取、フェミニズム、男女の経済格差……。議論はつきない。なにかのきっかけで、すぐに炎上する火薬庫のようだと感じます。