“白人ばかり”の映画は売れなくなっている

しかし、これからのアカデミー賞はダイバーシティに向かう流れが後戻りすることはないだろう。それは社会的な理由だけではなくビジネス上の理由もあるからだ。

米国の調査によれば、今やピープルオブカラーのキャストが4~5割を占める作品が、最も興行成績が良いことが分かっている。反面、その比率が11%以下の作品の売り上げは最低ランクだという。

無人の映画館
写真=iStock.com/peshkov
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多様化した社会に住むアメリカ人はリアルなアメリカが見たい。グローバルマーケットであればなおさら、自分たちを代表する俳優たちが躍動している映画が見たいのは当然だろう。

こうした中でアカデミー賞は昨年9月、ノミネート作品に対するダイバーシティ・ルールを策定し、2024年からはルール違反の作品はノミネートできなくなる予定だ。

なぜ『ノマドランド』は評価されたのか

監督賞受賞など作品として圧倒的な評価を得た『ノマドランド』だが、出演者も主演女優のフランシス・マクドーマンド含めほぼ100%白人。彼女が演じるファーンは、キャンピングカーでアメリカ西部を放浪する60代の女性だ。高齢化、失業、ホームレスなど、アメリカ人が抱える恐れや不安を静かに描き、コロナで疲弊した人々の心に染みわたった。

こうした白人の恐れはピープルオブカラーへの怒りや憎しみに向きがちだが、この映画では冷徹な現実を、同じ非人間的なシステムの中で白人も苦しんでいるという、皆が共感できるアメリカの物語に昇華させた。それをクロエ・ジャオという中国出身女性が監督したのも象徴的だ。彼女はスピーチで中国の詩を引用し「人間は生まれた時は皆本質的に良い人だと信じている」と語った。

「あらゆるヘイトを拒絶しよう」

俳優・プロデューサーとして数々の黒人主役映画を製作、慈善家でもあるタイラー・ペリーの言葉も今年のオスカーを象徴している。ジーン・ハーショルト人道賞を受賞した際のスピーチで、「すべてのヘイトを否定しよう、白人だから、黒人だから、LGBTだから憎むことを否定しよう。アジア人だから、警官だからといって憎むことを拒もう」と述べた。

さらにこうも付け加えた。「この賞を、“真っただ中にいる人”に捧げたい。どんなに壁が高くてもそれを超えて対話を始めることが、何かを変えるきっかけになる」

コロナという人類未曾有の危機と、BLMというアメリカを揺るがす社会運動を受けて行われたオスカーは、俳優やクリエイターたちの思いを静かに発信して幕を閉じた。これが来年にどうつながっていくかは、私たち受け手がどんな映画を望むかにかかっている。

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