『パラサイト』は脚光を浴びたが…

2016年のオスカーの後、賞を主催する映画芸術科学アカデミーは女性とピープルオブカラーの投票メンバーを2倍にすることを表明。雇用についても、俳優はもちろん裏方にもピープルオブカラーと女性を増やすことを宣言した。

そのためか、1年後の2017年オスカーでは『ムーンライト』が最優秀作品賞をとり、マハシェラ・アリが助演男優賞、ヴィオラ・デイヴィスが助演女優賞に輝いた。

しかしその後3年間、ピープルオブカラーはそれなりにノミネートされていたが受賞数は低迷し、2019年には『ブラック・クランズマン』で監督賞の呼び声が高かったスパイク・リーが受賞を逃すなど、多くのファンが首をひねる結果が続いた。

翌2020年では、女性とピープルオブカラーの投票メンバーはそれぞれ31%と16%まで増えた。その結果が韓国映画『パラサイト 半地下の家族』の作品賞につながったとも考えられる。字幕映画は受賞できないというこれまでの常識を打ち破り、折からのアジアブーム、特にK-POPや韓国ドラマ人気の追い風にも乗った。

しかし、ピープルオブカラーで主演俳優のノミネートはシンシア・エリヴォのたった1人。ダイバーシティはパラサイト1点に集中したかのような印象を受けた。

ところが今年になると話は全く変わってくる。

最多受賞…いったい何が起きたのか?

今年はピープルオブカラーが最多ノミネート、最多受賞という歴史的なオスカーになった。

特に助演女優賞に、アジア女性としては2人目で初の韓国人受賞を果たした『ミナリ』のユン・ヨジョン、助演男優賞は5人のノミネートのうち3人がアフリカンアメリカンで、『ユダとブラック・メサイア』のダニエル・カルーヤが受賞。主演男優賞はノミネートでは5人のうち3人、主演女優賞もノミネートでは5人のうち2人がピープルオブカラーだった。

メークアップ&ヘアスタイリング賞で初の黒人が受賞、短編映画でも、黒人への警察暴力をモチーフにした『トゥー・ディスタント・ストレンジャーズ』が受賞した。

 ハリウッド大通りのお土産店に並ぶオスカー像
写真=iStock.com/vzphotos
※写真はイメージです

しかし、今年最もインパクトが大きかったのはやはり監督賞だろう。女性が2人ノミネートされたのも初めてなら、クロエ・ジャオは女性2人目の受賞、また初のアジア人女性でもある。

今年はいったい何が起きたのか? 実はノミネート対象となる2020年に公開された上位185作品のうち、ピープルオブカラーが主役の作品は40%、女性の主役は48%と例年よりも比率が大幅に上がったのだ。しかしそれは、ハリウッドが雇用を劇的に拡大したからではない。