かつて文在寅氏を支持した若い世代が、野党側に鞍替えした

なぜ与党は惨敗したのか。直接的には、文在寅氏を強く支持した若い世代の多くが野党側に回ったためだという。

文在寅政権下で兵役や大学入試、そして就職など若い人々が強い関心を持つところで不祥事が相次ぎ、これがソウルと釜山の市長選に大きく影響した。もちろん、こうした若い世代の支持離れは次期大統領選でも政権与党の足を強く引っ張ることになる。

韓国KBSなどテレビ3社の調査では、全年齢層で野党候補の得票率が与党候補を上回った。とくに野党支持が目立ったのが18歳~20歳の男性だった。この年齢層の男性は「兵役」「大学入試」「就職」の3要素のいずれにも関係している。

この3要素の観点から文在寅政権を見ると、たとえば、元法相の曺国(チョ・グク)氏は、娘が虚偽の経歴書を作るなどして大学に不正入学したとの疑いが浮上し、これが法相辞任の一因となった。曺氏はむいてもむいても出てくる疑惑の多さから韓国メディアから「たまねぎ男」と揶揄された。

後任の女性法相の秋美愛(チュ・ミエ)氏も、息子の兵役に絡んで不正行為があったとの疑惑が指摘された。ちなみに、秋氏は検察改革でつまずいて辞任に追い込まれている。

韓国は学歴社会である。それゆえ入試不正は国民の非難の的になる。就職は学歴社会と直結する。しかも若い人々の就職難は深刻で、失業率もかなり高い。韓国社会では不正入試と同様に兵役逃れも厳しく糾弾される。

ソウルの街並み
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土地投機疑惑と検察改革に対する世論の反発

さらに与党惨敗の原因としてはこんな分析もある。

そのひとつが宅地開発を担う韓国土地住宅公社(LH)の職員による土地投機疑惑。もうひとつが尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長を辞任に追い込んだ文在寅政権の強引な検察改革に対する世論の反発である。

実際、この2つの問題が浮上した3月初めごろから文在寅政権の支持率は落ち込み方が激しくなった。4月2日に発表された韓国ギャラップの世論調査によると、支持率は過去最低の32%まで急落した。

土地投機疑惑は、公社職員らが未公開の情報を入手して値上がり確実な土地を買いあさっていたというもので、3月初旬に市民団体の告発で発覚した。疑惑は国会議員や大統領府職員、地方公務員にも広がり、現在韓国の警察当局が600人以上を対象に捜査を進めている。

韓国では文在寅政権以降、物価が上昇している。ソウルのマンションの価格は文在寅政権前と比べて6割以上も高騰し、庶民が大都市でマイホームを手に入れることができなくなっている。国民が土地投機疑惑に強く反発したのは当然である。

ところで、尹氏は3月に検事総長を辞任し、野党から大統領選への出馬が期待されている。この尹氏が出馬して保守と中道勢力とが結集すれば、「共に民主党」などの与党は勢力を失い、政権交代への扉が開くことは確実だと、沙鴎一歩はにらんでいる。