若手の部下を育てるのが天才的にうまい

こうしたテクニックは管理職候補を対象にした研修で身につくものではない。「コミュニケーションが上手いだけではなく、人に対する思いやりとか、何とか助けてやりたいという、その人の人間性から滲み出てくる要素が大きい」と言う。

組織
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とりわけ権限が大きい“金八部長”になると、本人との対話だけではなく育成の仕組みも上手い。前出の広告会社の人事部長はこう語る。

「職場に新人が入ると、ペアを組むマンツーマンのOJTリーダーを指名し、そのフォローを係長や課長に任せるのが普通です。でも、リーダーが育成上手な人だといいですが、40歳過ぎの、下手をするとパワハラでもしかねない人を指名したら目も当てられない。では金八部長はどうするかといえば、先輩、上司、他部署の先輩など5人ぐらいの社員のリストを渡し、『この中から、君が信頼でき、話しやすい人をメンターにしていいよ』と選ばせるんです。たとえば『彼は君が今やっている仕事については詳しいよ』とか、『隣のセクションの彼女は君の大学の先輩だよ』と教える。新人はそれをヒントに自分の横・縦・斜めの位置にいる人からメンターを選ぶ」

相談相手が一人しかいないと、一度教えてもらったことを2度聞くのを嫌がる新人もいる。恥ずかしいというか、彼らにもプライドがある。だが、そんな新人を放っておくとストレスもたまる。

そんな時に、1年上の先輩や隣の部署の先輩であれば恥ずかしくもなく聞くことができるし「俺のときはこうやったな」と解決方法を教えてくれる。あるいは顧客とのトラブルで悩んでいることを相談すると「俺に任せろ」と言ってくれるかもしれない。

もちろんそのすべてを仕切っているのは“金八部長”だ。

「メンター候補を選ぶ段階で事前に候補者に『A君から相談があったら答えてやってね』と声がけしています。もちろん声がけした人たちは女性社員も含めてすべて部長が仕事を通じて信頼関係を築いてきている。そうした幅広い社内のネットワークも金八部長の強みです。だから全面的に協力を約束してくれる。部長は課長時代の経験で新人がなぜ悩むのか熟知しているし、仕事だけではなく、人生の悩みにも対応しなければと考えている人。そうすることによって上手に部署をまとめ上げています。メンターの仕組みは会社が強制したものではないし、新人の性格を考慮して臨機応変に対応して仕組みをつくる。柔軟かつ巧みさを兼ね備えた人です」

評価が低いのは「ジャイアン型」「高倉健さん型」

では、部下育成の上手い金八管理職の対極にいるのはどんな人物か。広告会社の人事部長は漫画「ドラえもん」に登場するジャイアンに例える。

「親分肌で人の話はあまり聞かず、言われた通りに行動しないと急に怒り出すジャイアン課長、ジャイアン部長がいる。いわゆる“瞬間湯沸かし器”といわれるタイプです。新人が相談してきても『俺はこうやっていた』と、自分のやり方を押しつける。もちろん、本人はそのやり方で実績を上げたかもしれないが、誰にでもマネできるものではないし、それができないと叱りつけて部下を潰してしまう。このタイプで嫌われるのが、武勇伝。俺はこうやって修羅場をくぐりぬけてきたという話をよくするが、ためになる話ならいいが、単に自慢話じゃないかと若い人に思われるとメチャクチャ嫌われる」

ジャイアン課長ほど横暴ではないが、部下育成の下手なタイプとして俳優の高倉健のような“健さん課長”もいると語るのはゼネコンの人事部長だ。他の業種にもこうしたタイプは少なくない。

「現場の職人気質の管理職に多いが、要するに寡黙で何も言わない人です。会社の部・課長会に出席するとよくわかる。最初から最後まで一言も話さず、無駄口をたたくこともない健さん課長、健さん部長がいます。それでも仕事はできるのだろうが、部下に対しては『黙って俺の背中だけを見ていろ』という感じの人。もちろん部下のために戦ってくれる義侠心のようなものを持っているので、性格をよく知っている部下からは信頼されますが、何も知らない新人にとっては、ただ怖そうなオジサンにしか映らない」