善意の「セカンドキャリア研修」で退職に誘導する手口
コロナ禍の中、会社と社員の関係がどんどん変わっている。先日、人事関係者が集まるあるセミナーで大手メーカーの人事部長がこんな意味深な発言をした。
「自己裁量を与えることで社員の自立を促し、労働時間に縛られない働き方改革はコロナ前からの課題でした。それが、コロナでテレワークが普及し、仕事の管理や成果を含めて自律的に高い競争力を発揮できる人材の重要性がより浮き彫りになりました。同時に企業の存続と発展を目指すには、ビジネスの変化に応じて必要な人材をいかに外部から集められるかが重要になってくる。その障害となる年功賃金や終身雇用の排除はもちろん、労働移動は避けられないだろう」
人事部長が言いたいのは、要は、会社が生き残るには成果重視の賃金体系に移行し、貢献度の高い人材を優遇し、優秀な人材を外部から調達するようにするということ。
それは、終身雇用をやめて「労働移動」、つまりリストラによる人材の入れ替えを常態化するということだ。驚いたのは、人事部長の発言に思いのほか、賛同者が多かったことだ。
コロナ禍で始まったテレワークや時差通勤、フレックスタイム制など自由度の高い働き方はおそらくアフターコロナでも続くだろう。これを歓迎する社員も多い。
しかし、自由度の高い働き方の代償として、成果による報酬格差と会社からの“退出”を余儀なくされるケースも出てくる。
「早期退職優遇制度」を「セカンドキャリア支援制度」と名称変更
社員退出の方策として、セミナーの参加者からは政府に対して、「解雇規制の緩和」や「解雇の金銭解決制度の早期実現」の声があがったが、現実的な方策として誰もが納得したのは大手サービス業の人事部長の以下の発言だった。
「当社は常設の『早期退職優遇制度』を導入している。これは45歳以上の社員が退職して独立起業や他社への就職を支援する制度ですが、これまで手を挙げる人は少なかった。そのため、『セカンドキャリア支援制度』という名称に変更した。45歳の節目にキャリア研修を実施し、今までのキャリアを振り返るとともに、今後どう生きていくかを問い直す機会を与え、今の会社では実力が発揮できそうにない社員にはセカンドキャリア支援制度を利用し“転進”を勧める。支援の仕組みは、退職金割増金に加えて、退職前の1年間は就業しながら独立準備や再就職活動を認めるほか、新たに副業を認めて、週2日程度他社で働くことを通じて次のキャリアに向けた準備ができるようにしている」