「希望退職者募集」は一時的だが「セカンドキャリア支援制度」は常時
転進とはうまいネーミングだが、キャリア研修と「セカンドキャリア支援制度」をセットにしたリストラ制度であることは間違いない。
似たような制度に「希望退職者募集」があるが、コロナ禍のリストラ策として現在、多くの上場企業が実施している最中だ。希望退職者募集とは、業績悪化などの際に期間と人数を限定して退職を促す臨時的なプログラムであるのに対して、セカンドキャリア支援制度(早期退職優遇制度)は、時期・人数や会社の経営状況に関係なく、社員自らの意思で退職する人を優遇する常設された制度という違いがある。
希望退職者募集は数百人、場合によっては数千人単位で一挙に実施されるが、優秀人材の流出だけではなく、残された社員の負荷の増大やモチベーション低下といったデメリットもある。その点、早期退職優遇制度は毎年一定人数に限定されるのでデメリットは少ない。
しかも「キャリア開発」という研修を通じて退職に誘導するなどやり方も巧みだ。実際に50歳社員を対象にキャリア研修を実施している消費財メーカーの人事担当者はこう語る。
「20~40代にやってきた職務や経験を書いて振り返ってもらったうえで、今後、会社に対してどういう形で貢献していくのかを具体的に発表してもらう。それに対して外部の講師から『あなたのスキルや経験では貢献するのは難しい』とか『本当に会社に貢献したいのであれば、今まで以上に努力して新たなスキルを学び直す必要があるが、あなたにそれができるでしょうか』といった厳しい指摘が飛ぶ。研修を通じて自信を失い、打ちひしがれる人も出ますが、研修後に人事から『まだ若いですし、そろそろ外で活躍することを含めて考えてはどうですか、早期退職優遇制度もありますよ』とやんわりと言うと、しばらく考えて制度を利用したいと言ってくる」
もちろんすべての企業がキャリア開発研修をリストラのツールに使っているわけではない。キャリア研修を手がけるインストラクターはこう語る。
「大手企業の中には、中高年社員をもう一回鍛え直して、長く働いてもらうためにキャリア研修を実施するところもあれば、研修を使って辞めさせたいという企業に分かれる。実際に人事から『どうやったら辞めてもらえますか』という相談を受けることがありますが、そうした企業からの講師依頼は断るようにしています。しかし、経営者や人事のニーズに応じて、引き受ける人材サービス会社や同業のインストラクターも少なくない」
なぜ、「45歳」社員をリストラの標的にするのか
「セカンドキャリア支援制度」という名の早期退職優遇制度を導入している前述の大手サービス業の人事部長はこの辞めさせる仕組みを50歳から前倒しして45歳の社員に適用したいと言っている。
もちろん退職割増金や1年間の独立・転職支援サービス付きなので、何かやりたいことがある社員にとっては魅力があるかもしれない。
それでもなぜ45歳なのか。消費財メーカーの人事担当者は「気持ちはよくわかる」と語る。
「45歳は入社後約20年、65歳まで雇用するとなるとちょうど折り返し地点だ。正直言って30代後半以降の非管理職世代では仕事に対するモチベーションが高い人は3割程度しかいないという社内調査もある。当然、人事評価も高くない“働かないオジさん”もいる。そんな人をあと20年も面倒をみるのは厳しい。また本人たちのことを考えても50歳を過ぎて新しい会社でチャレンジするのも大変だ。45歳ならメンタリティも変わるだろうし、転職先も見つかるし、再チャレンジするにもふさわしい年齢だろう」