さらに近年では、自民党がいったん弱体化したのち、民主党政権を経て成立した安倍長期政権下においてどんな変化があったのか、分析が待たれていた。安倍政権下では、安保法制の導入もあって、かつてのような保革対立の再燃がクローズアップされたからだ。
与野党の対立は、やはり古典的な安保の対立軸に回帰するのではないか。そういう観測がでてきた。
「革新」に対するイメージの変化
本書はそうした時代を通じたイデオロギーの対立軸(複数)の変遷を過去の世論調査データを駆使しながら解析し、有権者自身のイデオロギー上の位置づけ、世代によるイデオロギー認識のねじれなどを説明している。
80年代には革新の退潮が始まり、冷戦が終わる前に共産党や革新に対するイメージの変化が起きていたこと。その結果として、「革新」という言葉がかつてのような冷戦文脈での「左」を意味するものではなくなり、若い人の間では日本維新の会のような市場競争を重視する勢力として位置づけられるに至っていること。
世代間の受け止め方の違いなどを独自の分析を通じて説明することで、政治的態度と行動の間の連関をもっと丁寧に見る必要があるという指摘は大きな意義がある。
また、分析によれば、自民党への投票は相変わらずイデオロギー的な側面が強い一方で、共産党への投票はイデオロギー投票とは必ずしも言えない傾向になってきている。今後、イデオロギーのみでは投票行動の説明が難しくなってくる中で、クローズアップされるのは、改革派のイメージなどふわっとしたものも含めた、政党による有権者の価値観への寄り添いかもしれない。現にそうしたイメージ戦略の展開は始まっている。そんなことを考えさせられた。