社長と幹部の昼食は車内でコンビニ弁当

店舗数が増えるにつれ、一人で10店舗程度の経営責任を持つスーパーバイザーの役割が非常に重要になった時期に、その職務について筆者に次のように語ってくれた。

「スーパーバイザーは、店内作業のスペシャリストでなければならないと思います。たとえば、窓ガラスの掃除やレジ打ちなどの作業が、誰よりも上手でなければなりません。パートさんの掃除のやり方が間違っていたら、その場でスーパーバイザーがお手本を示して、OJT教育(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)ができなければならないからです。

だから、店長やスーパーバイザーは、常にアップデートされていく最新の店内作業を習得し続けなければなりません。店舗を回って、店長や部下に『頑張っているか』と言うだけの激励屋のようなスーパーバイザーは必要ないと考えています」

また、どんなに忙しくても「店舗回り」を続ける現場主義の精神が、ツルハの企業文化として根付いている。筆者は、20年ほど前に鶴羽樹社長(当時)ほか、何人かの幹部と一緒に、函館市で店舗回りをしたことがある。

野外を歩いている 2 人の成熟したビジネスマン
写真=iStock.com/JGalione
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昼飯どきになって、「どこの高級レストランで食事をするのか?」と思っていたところ、地場のコンビニである「ハセガワストア」のやきとり弁当(実際は焼きトン弁当)を、幹部が割り勘で購入していた。そして、当時のスーパーバイザーの社用車である1300ccの日産NOTEの車内で、素早く弁当を食べて昼食を済ませ、午後の店舗回りを再開した。

時間がもったいないので昼食はコンビニ弁当というルールは、ツルハの伝統なのだそうである。筆者は鶴羽樹氏から、「300円均一の居酒屋がいい」「『海鮮居酒屋はなの舞』の餃子が一番美味しい」といった庶民的な好みの話を何度も聞かされたことがある。

大企業の社長とは思えないような質素で庶民的で飾らない人柄が、多くの人に愛された。鶴羽樹氏の人柄の良さが、ツルハHDを成功に導き、平成時代の飛躍的な成長の原動力になったといってもいいだろう。

地域に根差したドラッグストアと提携して拡大を進めた

ツルハHDは、積極的なM&Aによって規模を拡大した代表的なドラッグストア企業でもある。

ツルハは2006年に中堅ドラッグストアの「くすりの福太郎(本社・千葉県鎌ケ谷市。小川久哉社長)」と資本・業務提携を結び、翌年には当時としては大型のM&Aを行った。当時から単独での成長にはこだわらず、志を同じくする企業と一緒になり、ともに歩むことによる成長を目指していた。

その後、「ウェルネス湖北(島根県)」「ハーティウォンツ(広島県)」「レデイ薬局(愛媛県)」「杏林堂薬局(静岡県)」「B&D(愛知県)」「ドラッグイレブン(福岡県)」など、地域で愛されているドラッグストア企業と資本・業務提携し、グループ戦略による規模の拡大を一気に進めた。