駅の転落事故はホームドアを設置すればほとんどが防げる。ただし、設置には高額な費用がかかり、工事も難しい。なかなか設置が進んでこなかったが、ここに来て各社が相次いで完備させつつある。何が起きているのか、鉄道ジャーナリストの枝久保達也氏が解説する——。
JR新小岩駅で使用が始まったホームドア
写真=時事通信フォト
JR新小岩駅で使用が始まったホームドア=2018年12月8日、東京都葛飾区

後を絶たないホームからの転落事故

20年前の1月26日、JR山手線新大久保駅で酒に酔ってホームから転落した男性と、男性を助けようとして線路に飛び降りた日本人男性と韓国人留学生の3人が電車にはねられて死亡する事故が発生した。

国土交通省はホームからの転落事故に対する安全対策として、非常停止ボタンまたは転落検知マットの設置、ホーム下待避スペースの確保などの措置を講じるよう全国の鉄道事業者に対して指導するとともに、「ホーム柵等の設置促進に関する検討会」を設置して、既存路線へのホームドア設置の技術的な課題の調査に着手した。

しかし、それから10年後の2011年1月16日、JR山手線目白駅で視覚障害者の男性がホームから転落し、電車にはねられて亡くなる事故が発生。国交省はこの事故を受けて、利用者が多い駅や視覚障害者団体の要望の多い駅からホームドアの設置を急ぐよう鉄道会社に求めた

そもそもホームに点字ブロックが整備されるようになったのも、1973年2月に山手線高田馬場駅でホームから転落した視覚障害者の男性が電車と接触して亡くなった事故で、遺族が国鉄に対し損害賠償を求める裁判を起こしたことがきっかけだった。

導入が始まったのは40年も前だが…

ここ10年でホームドアの設置は急速に進みつつあるが、未だに視覚障害者の転落事故は後を絶たない。2016年8月には東京メトロ銀座線青山一丁目駅で盲導犬を連れた視覚障害者の男性が、昨年11月にも東京メトロ東西線東陽町駅で視覚障害者の男性がホームから転落し、電車にはねられて亡くなった。いつの時代も、安全対策が犠牲なくして進まないことは残念でならない。

ホームにドアを設置することで列車と乗客を分離し、安全を確保するというアイデアは新しいものではない。例えば、「新幹線の父」と呼ばれる元国鉄技師長の島秀雄は、神戸駅での転落事故でいとこを亡くした経験から、古くからホームドアの必要性を訴えていた一人だ。島はホームの危険性を激流の上に渡した丸太橋にたとえ、危険な橋には「欄干」をつけて安全を確保しなければならないと考えていた。

しかし、実際にホームドアが実現するまでには多数の年月を要することとなる。都市鉄道で初めてホームドアを導入したのは1981年に開業した新交通システム「神戸新交通ポートアイランド線(ポートライナー)」であった。地下鉄では1991年に開業した営団地下鉄南北線が嚆矢こうしとなった。今年はそれぞれ40周年、30周年の節目となる。