ホーム改修、ダイヤ見直し…できない理由はたくさん

ホームドアを整備するにあたってのハードルは他にもある。例えば、ホームの改修だ。一般的なホームドアは、ドアと戸袋の一セットあたり500キロもの重さがある。

地下鉄のホームは鉄筋コンクリート製で強度が十分にあるため問題ないが、JRや私鉄の古い駅では、盛り土の周りにコンクリートブロックを並べただけのホームも少なくない。こうした構造のホームはホームドアの重量を受け止めることができないため、地中に杭を打ち込んで補強する必要があり、工事に年単位の時間を要することもある。

また、ホームドアの開口部と車両のドアを合わせるために、自動でブレーキをかけて停車するTASC(定位置停止装置)やATO(列車自動運転装置)などを全ての車両に整備する必要がある。

さらにホームドアを設置することで駅の停車時間が延び、所要時間が長くなるため、ダイヤを見直す必要がある。所要時間が延びれば時間あたりの輸送力が低下し、混雑が悪化する可能性がある。

所要時間が延びると車両の運用効率が悪くなるので、必要な車両数が増加し、車両を増備する必要が生じる。車両が増えるということは、それを収容する車両基地も増設しなければならない、といったようにホームドアを設置することで、玉突き的に問題が生じてくる。

このようにホームドア整備が難しい理由を挙げればキリがない。

消極的だったのが、今や整備率を競うように

実際、10年以上前はこれらの理由を挙げて、ホームドアの全面的な展開は困難だという論調が強かった。しかし、これまで述べたような痛ましい事故が後を絶たず、最終的には世論がホームドアを求めたため、鉄道会社としても無視することができなくなってきたのだ。

それどころか今日では、東急が全路線全駅へのホームドア整備を大々的に発表したように、整備率を競うような状況にすらなっている。完全にゲームチェンジが果たされたのである。

地下鉄の駅
写真=iStock.com/sxetikos
※写真はイメージです

ホームドア導入が前提になれば、さまざまな工夫が生まれてくる。当初は開口部の狭いホームドアしかなかったが、多様なタイプの列車に対応するため、大開口のホームドアが開発され、ドアピッチの異なる車両が存在する路線に導入されたケースもある。

また、車両のドア位置にあわせてホームドア自体が動くタイプや、上下に昇降するロープまたはバータイプなど、さまざまなドアピッチに対応したホームドアの開発も進んでいる。

あるいはホームドアを車両に合わせるのではなく、車両をホームドアに合わせることで解決する方向もある。2017年に登場した東武鉄道500系「Revaty」や、2018年に登場した小田急電鉄ロマンスカー70000形「GSE」、2019年に登場した西武鉄道001系「Laview」は、ホームドアに合致する位置に扉を配置した。こうした路線では、特急型車両の置き換えとともにホームドアの整備が進むだろう。