かつては列車の衝突を防ぐATS(列車自動停止装置)の設置が義務ではない時代もあったが、現在となっては許されない。それと同じように、ホームドアも(少なくとも)都市鉄道においては当たり前の存在になる時代が来るはずだ。

各社に有利になる仕組み作りが欠かせない

今後のホームドア整備はどのように進んでいくだろうか。すでに各社は5年10年のスパンで整備計画を策定しており、利用者が多い駅を中心に整備は着々と進んでいくだろう。展開が遅いという批判もあるだろうが、これまで述べてきた通り、多くのハードルを越えるには、どうしても時間を必要とする。

同時にネックとなるのが資金面の裏付けだ。ホームドア導入には車両の置き換えや改修、ホームの補強工事、ホームドア自体の設置工事、設置後のランニングコストなどさまざまな部分で金がかかる。

しかしJR、大手私鉄はコロナ禍により軒並み、赤字に転落し、2010年代のホームドア整備を支えた高収益は見る影もない。短期的にはホームドア整備に遅れが生じる可能性は否定できない。ホームドア整備への補助金交付制度もあるが、国も自治体も財政難であり、これ以上の上積みは期待できない。

これを解決するには、ホームドア整備とセットでワンマン運転化、あるいはドライバーレス運転化に踏み切ることで、人件費を削減できるようにするなど、鉄道事業のシステムチェンジが必要になるだろう。言い換えれば、ホームドア設置が鉄道事業者にとって有利になるような仕組み作りが欠かせない。

ホームドアのある駅に慣れてしまうと、ホームドアのない駅が恐ろしく感じるようになった。私たちでさえそうであるならば、視覚障害者など交通弱者の困難はいかばかりだっただろうか。ホームドアだけで終わりではない。全ての人が使いやすい公共交通を作り上げるために、鉄道事業者の想像力が問われている。

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