事故を防げるのになぜ設置が進まないのか

こうした先進事例はあったものの、ホームドアが普及するのは2000年代に入ってからのことである。都営地下鉄三田線と相互直通運転先の東急目黒線は、2000年に高さ約1.3メートルのハーフハイトタイプのホームドア(可動式ホーム柵)を整備した。

2002年には地下鉄千代田線の支線である綾瀬―北綾瀬間、2004年には地下鉄丸ノ内線の支線である中野坂上―方南町間にホームドアが設置され、2006年から2008年にかけて丸ノ内線の本線部にもホームドアが整備された。また2008年6月に開業した地下鉄副都心線も開業時からホームドアを完備している。

ホームドアを設置した駅では、ホームドアをよじ登って線路に侵入するという特殊なケースを除き、人身事故や転落事故は発生しなくなる。まさにホーム上の安全を確保する切り札と言えよう。しかし、これほど効果のあるホームドアが未設置の路線、駅がまだ多いのはなぜなのだろうか。

霞ヶ関駅
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最大の理由は、ホームドアとはそれ単体で稼働する設備ではなく、大きなシステムそのものだからである。鉄道は点ではなく線で展開されており、それ故、ホームドアをひとつ設置するだけで、路線全体に影響を及ぼすのである。

ホームドア設置にはいくつかのハードルがあるが、そのひとつがホームドアの位置と車両ドアの位置を一致させなければならないという物理的制約だ。これは簡単なようで難しい問題である。

数百億円も…車両丸ごと交換した日比谷線

東京圏の通勤列車は、1両あたり全長20メートルの車両であれば4ドア、18メートルの車両であれば3ドアでほぼ統一されているが、ドアの数は同じでもドアピッチ(ドアとドアの間隔)の異なる車種が運用されているケースがあり、ドアピッチを統一するために車両の転属や置き換えを行った事例がある。

また山手線や京浜東北線、田園都市線など混雑対策として6ドア車両を連結した路線では、ホームドア導入に先立って6ドア車両を通常の4ドア車両に置き換えた。

ホームドア設置のために最も大掛かりな設備変更をしたのは開業以来、18メートル3ドア車(一部、ドアを増設した5ドア車)を用いてきた地下鉄日比谷線だ。乗り入れ先の東武スカイツリーラインは20メートル4ドア車が主力だったことから、このままでは東武線内のホームドア設置に支障が出るとして、地下鉄線内のトンネルやホームを改修の上、全ての車両を20メートル4ドア車に置き換えたのである。