現場のリーダーに求めるもの

【河合】よその経営者がトヨタ生産方式の本を見て、現場に導入してもなかなか定着しないことがあります。かんばん入れたり、アンドンつけたりして……。でも、道具ばかり入れても、文化として定着させないと生産性は向上しませんよ。

【野地】やっぱり教える人がいないとダメなんですね。

【河合】生産現場でも事務でも実際の仕事は外から見ただけではなかなかわからないものなんですよ。僕らは現場の組長とか班長、TL(チームリーダー)に、自分がよそへ変わった時に自分の工程は必ず自分で全部やってみろ、と。人がやっとるところを見て、簡単にやっとるなと思ったって、それが簡単かどうかは自分がやってみにゃわからん。微妙な部分が必ずあるんです。

【野地】やはり現場でやってみると、いろいろなことがわかるんですか。

【河合】わかる。だから僕は現場の組長には、定期的におまえが入ってやってみろと。そうすると、あ、この工具は結構、重くてやりにくいね、と。ベテランだったら使えるけれど、新人だと無理じゃないか、と。もっと軽い工具でやれないかを考える。上の人が細部の仕事も現地現物で見ないと、カイゼンは浮かんでこない。

【野地】でも、現場というのは必ずそういうことありますよね。

「サボりたいから知恵を絞る」でいい

【河合】そう、現場は生きている。きのうまではよかったけど、ちょっとベアリングがいかれて動かなくなったとか。そうしたら、すぐ手を挙げて、アンドンの紐を引っ張れと。そして、コンベアを止めて、その場で直せと。海外の工場へ行くと、「ラインを止めたら良く言われない」というところは結構ある。トヨタ生産方式を入れている工場でも、そこだけはなかなか真似ができない。

【野地】そうですね、ケンタッキー工場の取材で、トヨタの女性幹部に聞いたら、「そもそもアメリカの自動車工場にはアンドンはない」って言ってました。

【河合】だから僕はとにかく稼働率100って、機械が故障ゼロ、それから工程内不良ゼロ、こういう世界を作れって盛んに言ってるんだけどね。

ただ、ほんとに言いたいのは、トヨタ生産方式って、がんばれ、がんばれと作業者を追い詰めるものじゃないんですよ。僕はサボりたいために知恵を絞った。それでいいんだ、と。今よりもっといいものを楽に早くつくることを考え、余裕のある仕事をしろと言っている。実際、みんなそうでしたよ。僕らの頃、ベテランはラインで余裕たっぷりで、お茶を一杯なんて人も。問題はやっぱり、今の子は真面目だということだね。自由に伸び伸びやらせることが大切だね。

【野地】まるで河合さんみたいですね。

【河合】そう、それでいいの。

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