【河合】僕らがカイゼンを考えたのは、とにかくサボりたくてしょうがなかった(笑)。いや、ほんとに。でも、最近の人ってまじめなんですよ。言われたことを言われたようにきちっとやる。僕らの頃は、標準作業をやれと言われても、少しでも早く帰って、酒を飲みに行きたいから、何かしら考える。「自分で好きなように考えろ」という風土ですから。
100個作れと言われたら、100個をいかに早く作ろうかを考える。そして、終わったら遊びに行く。そういう世界だったんですよ。
標準作業を「毎日変える」ことの大切さ
【野地】では真面目な人ばかり入ってきたら、トヨタは危機です。河合さんみたいなサボりたいやつを入れた方がいいです。一生懸命やることを表彰し始めたらおしまい。もっと適当にやれと。
【河合】真面目な話をすると、標準作業というのがあるでしょう。僕は標準作業を標準にするな、と。毎日変えろと言ってるの。決めたことを1年も同じことをやっとったら、もうそりゃ退化だぞ。よそは進歩しとるのに、日進月歩でやっているのに、うちが同じことをやっていたら負けますよ。むろん、安全と品質は確実に保証せにゃあかん。でも、半年も1年も同じ標準作業でやってるということはまったくカイゼンされてないということになる。
【野地】トヨタの工場って、3カ月くらい時間をおいて見に行くと、どこか変わってますね。
【河合】そうです。それがトヨタ生産方式です。ラインだって、引き直す。現場の「絵模様が変わった」って言うんです。
「おっ、ここなんかすっきりしたな。どうしたの?」って聞いたら、「河合さん、ここにあったゴミ箱の位置を変えました」って。それでいいんですよ、カイゼンってそんなことなんです。
【野地】それでいいってことですね。
カイゼンは新入社員でもできる
【河合】そうです。だから新入社員でもできる。新入社員の時はボルトが1個落ちとったら、ボルトを拾えば、それがカイゼン。拾わんでそのまま行ったら滑って転んでケガするかもしれんでしょう。避けてムダ歩行もあるでしょう。だからボルトを拾う。新入社員からそういう意識をさせないとダメです。
【野地】確かに他の工場ではゴミ箱の位置なんてずーっと一緒ですね。鉄道の駅でもそう。一度決めたものを変えるのは難しいこと。人は決めたことを変えるのは嫌なことなんですね。
【河合】そうです。私が現場へ行って、指導する。どんな言うことを聞くやつでも、変えることにはすごい抵抗がある。どんな不自然な動きでも、慣れてしまうと、それが自分の動きになるからね。そうすると、本人は変えたくないんだ。しかし、第三者から見たら「どうして、あっち行って、こっち行って、こんなに迂回してるんだ」と。こうすればいいじゃないかと言っても、その人にはそれがリズムで、リズムができあがると、人は変えたくないと思っちゃうんです。