自分のカイゼンが世界中の工場で採用される

【河合】僕は今でも現場の人間に「提案しなきゃダメだ」って言うんだよ。「それで、これいくらもらった?」「1万円です」って。「部長呼んでこい」って。なんでこんないいアイデアが1万円なんだと。もう1回再提案して3万円ぐらいつけろ。俺が許可してやる。

本人は喜ぶんですよ。いいカイゼンがあるでしょう。それを横に展開をすれば、影響は大きい。全世界にヨコテン(横に展開する 他の工場でも採用すること)で稼ぐ。この工場で1台あたり1円しか儲かってないとしても、全世界だったら100円になる。それがトヨタのカイゼンですよ。

【野地】そうか、ここでやったことを全世界でいいものは全部。

【河合】今はネットですぐに送るんです。たとえば、組み立て工場なら、田原がある、元町がある、堤がある、高岡がある。その工場で技術員と部長がリーダーになっていろいろカイゼンをやったり、新技術を開発する。開発したら、それをすぐに海外の拠点に送る。同じ設備が海外に10台あるとする。ひとつのアイデアを海外の10台全部に落とすんです。

【野地】ということは、例えばロシアで開発されたアイデアも……。

【河合】来ます、来ます。だからこっちからやったやつは全部出すし、向こうからいい提案がくれば我々も取り入れて勉強する。

【野地】海外から来て、河合さんが「えっ」と思うようなのもありますか?

【河合】あります、あります。どのショップも、だから鋳造も鍛造も、機械も組み立ても成形も塗装も、それぞれのショップがアイデアを出し合う。各ジャンルの工場でもやるし、世界でもやる。

自動車工場に駐車した新車の航空写真
写真=iStock.com/Elena Perova
※写真はイメージです

新入社員の創意くふうを育てるには

【野地】そういうのはどうやって訓練するんですか。

【河合】訓練より、入った時から創意くふう制度に慣れているからできる。カイゼンをするというマインドはみんなが持っている。だから僕らも入った時にまず創意くふうってことを勉強するんです。今の新入社員も一緒。先輩がちょっと教えて、「これが創意くふうだぞ」と。そして、書かせて提案させる。新人は1年間のうちに36件以上の採用があるとルーキー賞をもらえるんですよ。

【野地】それは生産現場だけですか。

【河合】いやいや、どこでも、事務所でも全部、一緒。だから先輩は自分の部下にルーキー賞を取らせるために頑張る。

俺の部下にどうしてもルーキー賞を取らせたいと。だから先輩が一生懸命教えて書かして出す。それでルーキー賞が取れたら、本人よりも先輩が喜ぶ。そうすると、今度はそのルーキーが新しく入ってきたやつを教える。こういうサイクルがずっとまわっているんです。

新入社員からそういう意識で、これが当たり前だという世界でみんながやっている。